「当時子どもだったからこそ」 3.11 若者が考える伝承のあり方
子どもの頃に東日本大震災を体験した若者たちは震災を知らない世代へ何を、どう伝えようとしているのか。岩手、宮城、福島の被災3県の若手教員や大学生とともに震災伝承のこれからを考える交流会が仙台市内で開かれた。あの時子どもだったから見えること、いま大人になったから言葉にできることをそれぞれの視点で語り合った。
伝承の連携組織「3・11メモリアルネットワーク」が「災害に向き合う教育の未来」と題し、語り部や教育関係者との交流会として8月30日に開いた。この日は、岩手県立大槌高教諭の佐藤諒さん(30)▽宮城県大崎市立古川四小教諭の佐々木亮さん(32)▽宮城教育大4年の高橋輝良々(きらら)さん(21)▽福島大4年の宍戸結実(ゆうみ)さん(22)――の4人が登壇した。
岩手県北上市出身の佐藤さんは黒沢尻北高1年時に震災が起き、沿岸部にいた父を亡くした。父との別れに際し感じたことや教員を目指す決意を当時、作文に書いた。教職に就いてからはそれを震災学習の教材として活用し、涙を浮かべて読む生徒たちには「自分の中にどう落とし込み、生かすかが大事」と伝えている。校内では震災を「自分事」として考えてもらうための実践に取り組んでいるという。
その一つが、生徒発案による生成AIの活用だ。生徒たちは経験していない事実を語ることへの心理的なハードルを乗り越えるため、実際に被災者から聞き取った体験談を基にAIで架空の物語を創作し、それを自らの体験として話す試みをしたという。
生徒からは「うそをついている感じがしてとても嫌だった」との意見があったが、「経験していないことを話したことで、経験した人の言葉が自分の中に深く入ってきた」との声も上がった。佐藤さんは「使い方によるが被災者の気持ちに寄り添ったり、あの日あの時に自分を投影したりする可能性を感じた。誰かに伝えることだけでなく、どう伝えるかを考えることも大事なプロセス」と力を込めた。
小学1年の担任を務める佐々木さんは宮城県東松島市出身で、震災時は石巻高2年だった。学校で一晩を明かし、翌日教師から「帰れる人は帰ってもいい」と言われ、胸まで水につかりながら家に向かった。しかし、今となっては危うい行動だったとの反省があるという。
現在、勤務先の児童や保護者には地震が起こるたびに「避難訓練の徹底」と合わせ「むやみに動くと危険」と伝えている。「災害は人生の中でいつでも起こる。情報を整理し自分の安全を確保してほしい」と話した。
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一方、自身の語り部の経験から、若者が語ることの可能性を指摘する登壇者もいた。
震災時に福島県伊達市立伊達小1年だった宍戸さんは、東京電力福島第1原発事故の影響であまり外に出られなくなるなど放射線への不安を抱えながら過ごした。そうした経験を県内の伝承施設などで話している。
自らの体験を語る時には、聞き手に震災の記憶があるかを確認してから内容を組み立てるという。事故後に起きた出来事やデータなど「事実」の側面と、当時感じたことや今、振り返って思うことなど「感情」の面を意識して伝えている。
「当時子どもだった世代だからこそ伝えられることがある」と宍戸さんは強調する。「学校の授業が放射線量検査に置き換えられ、除染が進まず(収穫体験などをする)畑が使えなくなった」など子どもの目線から日常の変化について語ると、発生時に幼かった同世代の聞き手が「そういえば私も運動会は室内だった」などと語り出すことは多いという。
「私の語りが相手の記憶と結びつき新たな語りを呼び起こす。それを『語りの連鎖』と呼んでいる。思い出される語りがどんどん集まれば、伝承に幅を持たせられるのではないか」と力を込めた。就職後も伝承を続ける思いが強く「当時の記憶を語ることで未来の子どもたちの環境を守ることにつなげたい」と語った。
石巻市立門脇小1年の時に被災した高橋さんも、震災遺構となった被災校舎での語り部活動に取り組んでいる。同校は日ごろの避難訓練が生かされ、ほとんどの児童が高台に避難し助かったことで知られるが、下校中の児童ら7人が犠牲となった。その中には「一緒に先生になろう」と約束した同級生もいたという。悲しみを二度と繰り返さないために「被災者かどうかに関係なくみんなで伝えつないでいかなければ」と考え、命の大切さを肌で感じられるような伝え方を目指している。
津波と火災で被災した母校は「色のない校舎」となった。だが、かつては明るくて温かい学校生活があったことを想像してもらおうと、語り部の活動では震災前の絵を描いて見せるなど聞き手に伝わりやすい工夫をしているという。
来春から宮城県内の小学校教諭になる予定で「災害時、子どもができることはたくさんあり、正しい行動で自分も親の命も守れる。子どもたちの力を信じる防災教育を作りたい」と話した。【百武信幸】
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