何が変わった“年金制度” 「隠し増税」とSNSで批判…「みんなの年金が増える」って本当?

2025/06/30 09:30 

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 自民、公明、立憲民主3党が修正し、13日に成立した年金制度改革法。「あんパンのあんこ」と例えられた「約10〜30年後の低年金対策(厚生年金積立金の基礎年金への活用)」について3党は「基礎年金の底上げ」「年金が増える」と強調するが、交流サイト(SNS)で「厚生年金積立金の流用」「隠し増税」と批判されている。何が正確な情報なのか。厚生労働省や複数の専門家への取材で確認してみた。
 「99・9%を超えるほぼ全ての厚生年金受給者の給付水準が上昇する」。石破茂首相は「あんこ」の効果について国会でこう答弁した。厚労省資料(現実的な想定)によると、目減り幅は5・8ポイント縮小(上昇)するが、就職氷河期世代が高齢者になり始める約10年後の年金水準は今の高齢世代より5ポイント低くなり、目減りは続く見通し。衆院の審議に参考人として出席した八代尚宏昭和女子大特命教授は「みんなの年金が増えるという、うまい話はない」と解説する。

日本総研試算では消費税1%相当の負担増
 給付が増える約10〜30年後は負担も増える。基礎年金は給付の半分を税金で賄うルールがあり、改革で厚生年金積立金から基礎年金への拠出額を累計53兆〜65兆円増やせば同額の税負担も自動的に付いてくる。税負担は自然減するはずが、増税や年金以外の予算削減が必要になる。SNSで「毒入りあんこ」と称されるゆえんだ。その税負担を担うのは現在の高齢世代ではなく主に就職氷河期世代以降の将来世代。年金問題に詳しい日本総研の西沢和彦理事の試算では負担増は消費税1%相当で、さらに増える可能性もある。
 職種によっても明暗は分かれる。厚生年金のサラリーマン(会社員、公務員)は将来の年金に充てられる積立金が拠出額増で累計5兆〜7兆円なくなり損をする一方、厚生年金に加入していない国民年金の加入者は自営業者だけでなく開業医や弁護士、国会議員などの高所得者も得をする。

専門家「政治による先送り」
 厚労省は、これまでも厚生年金積立金は基礎年金に「活用」していて、厚生年金と国民年金の基礎年金拠出の“割り勘”方法を加入者数割(未納・免除者は除く)から積立金額割に改めるだけだと説明。担当者は「賦課方式の下で積立金は保険料の余りに過ぎず、誰のものか分からない」と話す。これに関し西沢氏は「国民年金よりも厚生年金の方が被保険者1人当たりの拠出額が多くなるのでフェアではない」とする。SNSの「流用」批判には一定の根拠がありそうだ。
 「あんこ」の部分は成立した法律本体に記されず、5年後の次期年金改正時に判断を先送りした。その間も基礎年金の水準は下がり続ける可能性が高い。八代氏や西沢氏は抜本改革が必要だとし「政治による先送りで将来世代の負担が増す」と問題視する。

 <メモ>自民党内の会合で河野太郎前デジタル相は、低年金対策(厚生年金積立金の基礎年金への活用)に関し「流用だ」と反対。厚生労働省は対策を抜いた法案を国会に提出した。これに対し立憲民主党の野田佳彦代表は「あんパンのあんこだ」と対策の重要性を形容し、5年後の次期改革時に対策を復活させる修正案を自民、公明両党と共同提出した。河野氏は税負担の財源も不明確だと修正案を批判し「毒入りのあんこ」とSNSに投稿。採決に加わらなかった。
 
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