急速に広がる「年賀状じまい」 届いたら返事は?縁切れない工夫は?

2025/12/16 10:30 

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 2026年の年賀状受け付けが全国の郵便局で始まった。

 近年、年賀状を送ることをやめる「年賀状じまい」が急速に広がっている。

 交流サイト(SNS)の普及や郵便料金の値上げ、準備に手間ひまがかかる……理由はさまざまだ。

 廃れつつあるとはいえ、古くから定着している年始の慣習だ。年賀状を送るか否か、悩む人は多いだろう。

 手紙文化に詳しい専門家は「年賀状は送りたい人が送るものに変わっています。『書かなきゃ』とプレッシャーを感じなくて大丈夫です」と呼びかける。

 年賀状じまいの注意点や、年賀状を受け取ったときの対応について専門家に聞いた。

 ◇年賀状じまいは「5年以内」に

 年賀状じまいはいつから広がったのだろうか。

 年賀状印刷などを手がける「フタバ」(名古屋市)が11月下旬に行った調査で、すでに年賀状じまいをした200人にその時期を尋ねたところ、41・5%が「1~2年前」と回答した。

 「5年以内」と答えた人は約8割に上り、ここ数年で広がったトレンドと言える。

 理由で最も多かったのは、「LINE(ライン)などのSNS、メールやメッセージ機能で十分だと感じた」(単一回答で77人)、次いで「年賀状の準備が面倒になった」(同71人)となった。

 毎日新聞が昨年12月に行った世論調査でも、年賀状への忌避感が広がっている様子がうかがえる。

 「出していない」が41%と最も多く、「もうやめたい」26%、「枚数を減らしたい」18%をあわせると8割を超える。「これまで通り出し続けたい」は11%と少数派だった。

 ◇縁を切らない工夫を

 こうした風潮をどう見るか。

 日本独特の手紙文化や気持ちを伝える書き方を伝えてきた「手紙文化振興協会」のむらかみかずこ代表理事に尋ねると、意外な答えが返ってきた。

 「手間のかかる紙にこだわる必要はないんじゃないでしょうか。今は気軽に連絡を取り合えるツールがあまりにもたくさん身近にありますから」

 ただ、年賀状じまいをする際には注意点があるという。

 年賀状の中で翌年からは送らないと“宣言”する人も多い。むらかみさんは「あくまでも新年のあいさつが年賀状の目的であることを忘れないで」と強調する。

 本来書くべき近況報告や新年の抱負を書いた上で、その余白に、今後の連絡手段とあわせて年賀状じまいを知らせる形がよい、という。LINEの連絡先を読み込めるQRコードを添えるのも手だ。

 「縁を切りたいわけではない」というメッセージを伝える意味もあるという。

 最近は、年賀状じまいの文言がプリントされた年賀はがきやシールも販売されている。むらかみさんも「デザインがかわいいものもあるので、伝えにくいことを良いあんばいで伝えられる」と活用を勧める。

 ◇「プレッシャーを抱えないで」

 とはいえ、「年賀状を送りたい派」が一定数いるのも現実だ。

 フタバが昨年行った同様の調査によると、年賀状じまいを相手に伝える手段を尋ねた質問で最も多かった回答は「特に何もしていない」で、4割以上を占めた。

 自分が年賀状じまいを伝えても、相手から届くケースもある。届いたときにはどうすればいいのか。

 むらかみさんは「『お返事どうしよう』『書かなきゃ』というプレッシャーを抱えないで」と呼びかける。

 「もらいっぱなし」に不義理を感じるようなら返事をするよう勧める一方、無理して書く必要はない、という。

 「送る人が楽しんで送っているものは、ありがたく受け取ればいい。本人は送ることがうれしいんですから」

 そして、年賀状を送る側に向けて「紙での返事を期待して送る年賀状は良くない」とも注意する。

 「今の時代、年賀状を送ろうとする意思があるだけですごいこと。昔は送るのが当たり前でしたが、今は送りたい人が送るものに変わっているのです」

 ◇再開の兆しも?

 年賀状じまいの流れは今後も続きそうだが、年賀状の価値が再発見される兆しもある。

 今年のフタバの調査では、今後年賀状を出す意向があるかも尋ねている。40・5%が「機会があれば出したい」、10%が「来年は出したい」と回答しており、約半数は再開を検討していた。

 また、特に親しい友人との間で年賀状再開を考えている人が多い結果となった。

 連絡手段が少ない時代は、親族からビジネス上の関係に至るまで年賀状を送る慣例があった。

 今はどこにいても誰かとつながれるからこそ、大切な存在に対して、「新年に特別なあいさつを送る」という年賀状の原点が見直されるかもしれない。

 むらかみさんは「わざわざ郵便で日にちをかけて届く手紙の価値もあると思います。お正月だからこそ、あえてネットから切り離す生活をしてみるのも一つなのかなと思います」と話している。【川口峻】

毎日新聞

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