かつて珍重…由比産アワビ「復活を」 静岡の若手漁師がプロジェクト 源流の山林整備、漁場の栄…

2025/06/16 07:46 

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 かつては料理人などの間で珍重された「由比のアワビ」を復活させようと静岡市清水区由比地区の若手漁師らが今夏から、プロジェクトをスタートさせる。漁場に豊富な栄養を供給する由比川源流部の山林整備など、森と海のつながりを意識した取り組みに対して今春、米アウトドア用品大手パタゴニアの日本支社(横浜市)が支援を決めた。
 近年、由比産アワビは数が減ったことから、地元のすし店でもあまり扱わなくなっている。かつては1キロ超の巨大クロアワビが取れたこともあるが、特に2024年の夏から秋にかけて取れたアワビは例年以上に身が痩せていた。
 プロジェクトは源流部の大鏡山(標高564メートル)で間伐を行い、広葉樹を育てるなど植生の多様性を確保する。メンバーは由比港漁協貝漁組合(坂口猛組合長)に所属する若手・中堅漁師10人が中心。林業家でサクラエビ漁師でもある組合員の佐野文洋さん(53)=富士宮市=によると、アワビが育つ岩場には近年砂がかぶり、成育に適した環境とはほど遠い。周辺の海浜工事で砂が舞い上がり、海流で押し寄せている可能性も否定できないという。
 パタゴニアからは一定の助成金を受けられる見通しで、5年間継続する予定。今後、大鏡山のスギの間伐材で魚礁を作って由比川河口に沈めることで、魚がすみ着き、生態系全体が改善されることを目指す。アワビの稚貝をまいたり、専門家による勉強会を開いたりする費用にも充てる。
 密漁防止を目的に、防犯カメラの設置も検討する。
 坂口組合長(48)=同区由比=は「自分たちの代で結果がすぐに出ることがなくても、子や孫の代で森・川・海の関係が復活することを期待したい」と語る。
パタゴニアが支援 地元すし店も期待
 パタゴニア日本支社は本年度から、2030年までに陸と海のつながりに着目し、海洋環境の健全性を取り戻す支援を本格的に展開する。由比港漁協貝漁組合は、全国10団体程度の支援対象として選定された。
 同支社は売り上げの1%を草の根の環境活動の支援に充てる「1%・フォー・ザ・プラネット」を1985年から続け、今回の支援もその一環。柳谷牧子オーシャンイニシアティブディレクターは「静岡県には非常に豊かな湧水がある。沿岸域も、それによって良好に保たれているのではないか」と想像する。
 静岡市清水区江尻東の老舗すし店末広鮨(すし)の親方望月栄次さん(84)も同組合が行うアワビを復活させるプロジェクトに期待を寄せる一人。
 かつて、由比のアワビは「桑名のハマグリ」と並ぶほどのブランドを誇った。「コメノリという海藻がアワビを大きく育てる。切るとミルクのようなおいしい汁が出る」といまは希少となった由比産を高く評価する望月さんは、「魚や貝は環境の変化に正直だ。地元のものがたくさん取れるようになれば、もちろん使いたい」と強調した。
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