「今度あんな雨なら一発で駄目」 氾濫の恐怖でためらう自宅再建

2025/09/21 11:00 

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 「早く川を直してもらわんと、恐ろしくておれん」

 石川県輪島市久手川(ふてがわ)地区に建つ瀬例(せいれい)敏之さん(69)の自宅前には、塚田川が流れる。瀬例さんは、川の流れを見ながら、途方に暮れていた。

 ◇能登半島地震で自宅が半壊

 2024年元日の能登半島地震では、自宅が半壊した。水道が復旧したこの年の6月、避難先から戻った。

 それから3カ月後の9月21日、線状降水帯に襲われた。雨漏りした屋根などを直して自宅を再建したばかりだった。

 市内では、24時間の降水量が観測史上1位となる412ミリを記録した。

 9月1カ月の平均降水量は214・5ミリ。その2倍近くの雨量だ。

 加えて、各地で土砂や流木が大量に流れ出し、河川は氾濫した。その影響で、久手川地区では、4人が亡くなった。

 ◇「怖くて眠れず死を覚悟」

 瀬例さんの自宅前には、塚田川の濁流が押し寄せていた。

 「バケツをひっくり返したような雨だった。怖くて眠れず、死を覚悟した」

 逃げ遅れた瀬例さんと妻が自宅から救助されたのは、豪雨から2日後だった。

 「話にならんよ。どうすりゃいいんだ」。瀬例さんは豪雨の日をそう振り返る。

 自宅は床下浸水だった。農機具を保管していた納屋は全壊し、車2台が水没した。

 地震後に設置された仮設の水道管は流され、電柱もなぎ倒された。ライフラインの復旧のめどは、今も立っていない。瀬例さんは「みなし仮設住宅」と呼ばれる、輪島市が借り上げた市内の賃貸アパートで生活している。

 ◇対岸に渡れるほどの土砂や流木

 豪雨の後、土砂と流木で埋め尽くされた塚田川は、歩いて対岸に渡れるほどだった。政府は応急対策で土砂と流木を取り除き、被災前と同じ水量を流せるようにした。

 だが、護岸のコンクリートははがれ落ちたままで、岸壁の土はむき出しになったままだ。

 今でも週に数回は自宅に戻り、カビを防ぐために換気している。ライフラインが復旧すれば、住み慣れた自宅で生活したいと考えている。

 それでも塚田川の氾濫の恐怖から、ためらいもある。

 国土交通省は、能登豪雨により塚田川の流域で21・3万立方メートルの土砂が流出したと推計している。東京ドームの2割弱の体積に相当する。

 地震や豪雨の影響で緩くなって不安定な土砂は、今も約35万立方メートル残っているとみられる。

 ◇本格的な復旧工事はこれから

 塚田川の本格的な復旧工事では、川幅を広げたり川底を掘削したりして流量を増やす。土砂が流れ出すのを防ぐため、上流部に砂防ダムを整備する。

 近く着工し、29年度に完成させる予定だ。

 「あんな雨がまた降ったら自宅は一発で駄目になる。川幅を広げるなどして、二度と氾濫しないようにしてほしい」

 瀬例さんは、そう訴える。

 能登豪雨の被災地では、瀬例さんのように川の流域で暮らしていたが、同じ場所で自宅を再建しようか、二の足を踏んでいる被災者が少なくない。

 石川県が調べたところ、豪雨により38河川で護岸が崩れるなどの被害が出た。河川の本格的な復旧工事は、出水期が終わる今年11月以降に始まる。

 特に被害の大きかった4河川の工事が終わる予定は、26~29年度という。【島袋太輔】

毎日新聞

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