静岡・井川自然の家が存続岐路 稼働低迷で業務縮小 機能廃止も視野

2025/05/07 07:30 

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 静岡市が運営する青少年教育施設井川自然の家が存続の岐路に立たされている。少子化や施設の老朽化の影響でもともと利用が減少していた野外活動型の教育施設は、新型コロナウイルス禍を経た利用者側の意識の変化で稼働率の低迷に拍車がかかる。市は4月から受け入れを30人以上の団体のみにするなど業務を大幅に縮小するとともに、機能廃止も視野に民間による利活用の検討を進める。

 1976年開所の井川自然の家は南アルプスのふもとに位置し、四季に応じた自然体験を提供するのが特徴。地元住民も取り組みに協力してきた。ピークの83年度には市内の小中学校70校、延べ4万人超が利用したが、その後は減少傾向が続き、コロナが直撃した2022年度の利用は4452人。コロナが明けた24年度も7校6669人と1万人台に戻らず、公共施設再編に取り組む中で難波喬司市長が1億円近い年間赤字を問題視した。
 25年度の職員を4人と半減させ、人気を集めてきた「トム・ソーヤ」などの体験プログラムは中止、44年続けた広報誌「からまつ」の発行も終了した。施設を利用した家族連れからは「寂しい」との声が寄せられているというが、中西和哉所長は「利益を求めない教育施設とはいえ、学校利用が減り、存在意義が問われる形になった」と判断に理解を求める。
 市教委によると、教員の負担軽減も踏まえて野外活動の宿泊日数を減らす学校が増える中、井川は市街地から約1時間半の移動時間の長さや山道が敬遠され、比較的アクセスしやすい県の朝霧野外活動センター(富士宮市)や焼津青少年の家(焼津市)を選ぶケースが目立つようになったという。
 ただ、県の青少年教育施設も利用状況にばらつきがある。「朝霧」の利用者はコロナ禍以降、順調に回復している一方、観音山少年自然の家(浜松市浜名区)は回復が鈍く、県教委は3月、将来的に廃止する方針を表明した。
 全3区に1カ所ずつ同種施設を所有する浜松市は年間4200万〜1億円の指定管理料を支払っているが「需要が確保されている」(市こども若者政策課)として運営を見直す考えは現時点でないとしている。

沼津では17年に廃止 民間宿泊施設に再生
 沼津市は2017年、都市公園「愛鷹運動公園」内で44年間運営した少年自然の家を廃止し、民間事業者が施設を再利用して運営する宿泊施設「インザパーク」をオープンさせた。新型コロナの影響を受けた23年度を除き、独立採算の黒字経営を維持している。
 1973年開所の自然の家は周辺の自治体で類似施設の整備が進んだ影響で、利用者数は82年の4万人をピークに2010年以降1万人以下に低迷。市は新たな活用策を模索する中で施設と隣接する芝生公園、新設するテントエリアの一体的な利用を提案した事業者と10年間の協定を結んだ。
 客単価は2万〜2万5千円と公営時代の100倍を超えるが、力を入れる食事や豊かな自然環境に加え、新旧の施設が入り交じる空間演出が受け、主に関東圏の家族連れや若年層から支持を集める。市緑地公園課の渡辺和之係長は「愛着ある施設が活躍することで地域住民の誇りにもつながっている」と話す。

 <メモ>青少年教育施設 文部科学省によると、自然の中での集団宿泊生活を通じて健全な青少年育成を図ろうと国が補助制度を用意した1970年代以降に設置が進んだ。「少年自然の家」や「青年の家」などの名称で大半は自治体が運営している。少子化や市町村合併、建物老朽化の影響で96年度に全国で1319カ所あった施設は2021年度には840カ所に減少。県内も29カ所から19カ所に減った。
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