トランプ政権のハメネイ師殺害に既視感 容認できない「力こそ正義」
もう感覚がまひし始めている。トランプ米政権とイスラエルによるイランへの軍事攻撃、そしてイラン最高指導者ハメネイ師の殺害は、確かに異例の大規模作戦だった。だがどこかで既視感がある。対話を積み重ねる地道な外交を冷笑し、「力こそ正義」を信じて疑わない指導者たち。その振る舞いを私たちは何度見てきたことだろう。
世界は今、そんな時代だから仕方ない。そう突き放すのは簡単だ。だが主権国家への武力行使はそもそも国連憲章違反であり、改めてその原則を私たちは忘れてはならない。20世紀の2度の大戦を経て、国際社会は曲がりなりにも戦争をしないための仕組み作りを模索してきた。その努力を踏みにじる行為は、やはり容認してはならないのだ。
イラン現体制を巡っては、確かに苛烈な市民弾圧、核開発問題などに対する懸念も大きい。しかし問題解決のために武力を行使する手法は、かえって対立の固定化を招いてきたのが過去の教訓である。
首都テヘラン南方にイスラム教シーア派聖地のコムという町がある。ハメネイ師も若き頃、ここの神学校で学んだ。2019年、私がこの町を訪れた際に出会った20代の神学生は、聖職者が統治する現体制についてこう話していた。
「イランの同世代の若者が『自分』の自由を求める気持ちは分かります。でも同時に人は『他人』の役に立ちたいとも思う生き物。宗教にはその力があり、私は人々を正しく導く人間になりたい」
就職して利潤を追求することに魅力を感じず、高校卒業後に親の反対を押し切って神学校に入り直したと言っていた。
他人の役に立つ人間になる。若き日のハメネイ師もこの神学生と同じことを思っていたのだろうか。だが数十年後、デモ隊を弾圧し、多くの市民の命を奪う側になったとすれば、もはや「聖職者」ではなくなっていたのかもしれない。一方で、それをまた別の暴力で排除する米国の行為が正当化されるかは別問題だ。
イラン情勢激動の今、あの神学生を思い出す。彼は無事だろうか。今、何を思っているのか。今回の攻撃により、イランでは多くの小学生も命を落としたと報じられている。市民の犠牲をこれ以上増やさないためにも、今こそ双方が踏みとどまる時だ。どれほど困難でも、報復ではなく抑制を選ぶ政治的な知恵を発揮し、対話の回路を閉ざしてはいけない。(外信部長・篠田航一)
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