コメ不足と価格の高騰、なぜ起きた 識者が語る問題の本質とは
昨年から続くコメ不足と価格の高騰は大きな社会問題になっている。どうしてこのような事態になったのか。今後、主食であるコメの安定供給のために何が必要なのか。コメの流通に詳しい東北大大学院の冬木勝仁教授(農業経済学)に聞いた。
今のコメの価格高騰について、政府の対応は後手に回った。2024年春の段階から価格上昇の兆しは出ていたが、農林水産省は24年産の新米が出回れば価格は落ち着くはずとの楽観論を捨てなかった。
本来は新米価格が決まる前の24年8月の時点で備蓄米を放出し、過熱する市場を冷やすべきだったが、最初の備蓄米放出まで半年以上かかった。燃料代など農家の生産コストの上昇や新米の売れ行きに水を差すことを懸念し、政府が一定の価格上昇を黙認していたとも受け取られかねない対応だった。
その後の小泉進次郎農相の下での随意契約による備蓄米放出は緊急時の対応と言える。足元で5キロ3000円台の銘柄米がスーパーの店頭に並び始めるなど一定の効果は出ているが、25年産の新米が出始める秋には価格は下げ止まり、当面は3000円台後半での販売が続くとみている。
そもそも今の米価の高騰は複数の要因が重なって生じた。コメの流通経路は戦後から続く農協(JA)を経由する伝統的なルートと、農家から複数の仲介業者を通じて販売されるルートの2通りがある。
特に全体の約3割を占める後者のルートは流通経路が絡み合っており、価格の変動も生じやすい。昨年からのコメの供給不足により、こちらのルートを起点に異常な価格上昇が起こり、市場全体に波及した。
一方で、今のコメ不足は政府の責任でもある。コメ農家は政府による需要見通しをもとに事実上の生産調整をしているが、政府の見通しは1年ごとに需要と供給が均衡するように試算されている。
猛暑など想定外の生産不足の要因が起これば、一気に需要と供給のバランスが崩れ、価格が上昇する状況に陥っている。さらに近年の気候変動や物価高などでコメの需給予測はしづらくなっている。
政府は備蓄米の保管量を現在の100万トン程度から2倍の200万トンに引き上げ、一定の価格水準を超えたら備蓄米を放出するなどの運用ルールを検討すべきだ。
コメは工夫すれば国内の需要を自給で賄える数少ない作物でもある。安易に海外産の輸入に頼るのではなく、食料安全保障や輸送による環境負荷も考慮し、主食用の水田の増加策なども選択肢となる。
今回の価格高騰で、コメ農家の減少など農業が抱える課題に国民の関心も高まっている。各党はそれぞれ、あるべきコメの生産や流通体制など農業政策を掲げている。持続可能な農業を実現する政策を真剣に議論してほしい。【聞き手・杉山雄飛】
◇冬木勝仁(ふゆき・かつひと)
1962年京都府生まれ。京都大大学院経済学研究科博士前期課程修了。2017年から現職。専門は農業経済学・農業市場学。
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