「前売り券完売」なのになぜ空席? 背景に特殊事情 夏の甲子園

2025/08/21 06:30 

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 阪神甲子園球場で開かれている全国高校野球選手権大会は大詰めを迎えている。大会日程が進むにつれ、当日券の販売がなくなる「完売」状態が続き、人気の高さは相変わらずと感じさせる一方、スタンドを見渡すと空席も目立っている。原因を探ると近年ならではの事情が見えてきた。

 「もう少し(人が)来ると思ったのですが、この時期は難しくて……」

 19日の準々決勝第2試合で日大三(西東京)と対戦した関東一(東東京)の学校関係者は肩を落とした。15年ぶりに甲子園で実現した「東京対決」として注目されたが、両校のアルプス席は空席が見られた。

 アルプス席のチケットは学校側が大会本部を通じて購入する。関東一は1800枚を購入したが、実際に来場したのは3分の2程度だった。

 関係者によると、学校への問い合わせなどからチケットの枚数を決めたが、他の部活動の合宿が重なったり、盆を過ぎたりして来られなくなった生徒やOBらが続出。「応援したい気持ちはもちろんあるんですけども……」とつらそうな表情だった。

 いわゆる「一般席」にもぽつぽつと空席が見られる。そこにはチケット販売方法の変化が要因としてありそうだ。

 2018年に主催者側は外野席(自由席)を有料化するとともに、中央特別自由席を全席前売りの指定席にした。また、新型コロナウイルス禍を経て、22年に一般客の観戦が再開された際には全席指定・前売りとし、観客の入れ替えは実施しないこととした。

 いずれも安全対策と混雑緩和が理由だ。

 高校野球人気の高まりにより、それまでは徹夜で球場前に並んだり、開門と同時に席を確保しようと走ったりする人が問題となっていた。

 全席指定席となることで、前売りでチケットを購入すれば座席確保は必要なくなる。

 目当ての試合があれば、その試合時間に合わせて球場に行けばいいため、直前まで近隣の商業施設などで過ごす人も見受けられる。猛烈な暑さもあり、球場の通路で休む人も多い。

 チケット購入に間に合わなかった観戦希望者は、テレビ中継などで見える空席に歯がゆい思いをするかもしれない。

 大会序盤の「2部制」の場合は「午前の部」「夕方の部」と分けてチケットを販売していたが、大会中盤の11日以降は「1日券」として販売し、試合ごとの販売は現状、実施していない。

 さらに社会問題となっているのがチケットの「高額転売」だ。実際、インターネット上の民間サイトで大量のチケットが高額で購入できる状態となっている。

 日本高校野球連盟では「商業利用や営利目的の転売行為は固く禁止します」とホームページ上などで呼びかけているが、後を絶たない。過去には詐欺行為も発生しており、注意が必要だ。

 近年はテレビ中継のほかにスマートフォンなどから試合の様子を見られるネット配信も充実しており、観戦スタイルは多様化している。時代は変わっても、球児の見せる熱戦の価値は変わらない。【生野貴紀】

毎日新聞

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