通報者の保護、日本は後手? EUより狭い対象範囲、重い訴訟負担

2026/01/16 15:01 

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 公益通報者保護制度は、海外でも先進国を中心に整備が進みつつある。ただ、保護される範囲や、通報者が報復を受けた場合の対応は、国ごとの違いも目立つ。専門家からは日本の遅れを指摘する声も上がる。

 欧州連合(EU)では2019年に施行された「公益通報者保護指令」に基づき、加盟国がそれぞれの法律を整備した。

 保護指令では、公共調達や金融サービスといった各分野で行われる違反行為について、それが刑事罰や行政罰の対象でないとしても広く通報の対象としている。刑事罰や過料に該当する行為の通報に限っている日本との違いだ。

 保護される人の範囲も「業務に関連した違反に関する情報を入手した通報者」と広く定義している。このため労働者や退職者だけでなく、株主や研修生、採用段階の人も通報者と認められる。

 また、原則として50人以上の従業員が働く法人に対し、通報対応窓口などの体制整備を求めている。体制整備の義務が「従業員300人超」としている日本よりも厳格だ。

 ◇企業側に立証責任

 禁止される通報者への報復行為については、解雇や懲戒処分のほか、配置換えや勤務地の変更、ハラスメント、交流サイト(SNS)での嫌がらせなどを例示する。こうした不利益取り扱いを受けたと通報者が訴訟を起こした場合、事業者側に「正当な理由があること(通報に対する報復ではないこと)」の立証責任があると明示したのも特徴だ。

 一方、故意の虚偽通報には罰則を設けるよう求めている。日本では虚偽通報への罰則はなく、刑法の規定で対応することになる。

 ◇報奨金で通報促す米国

 米国では、公益通報者保護のための単一の法律は存在しないが、複数の連邦法で個別に内部通報者の保護規定が設けられている。

 たとえば、主に証券取引の法令違反に関する通報に適用されるサーベンス・オクスリー法(SOX法)は、米国に上場している企業や子会社、下請けの従業員らを保護対象とし、通報を理由とする解雇や降格、嫌がらせなどを禁じている。

 米証券取引委員会(SEC)への通報者を保護するドッド・フランク法は、通報に対する報奨金制度を設ける。SECが把握していない情報源に基づく通報により、制裁金が得られた場合、その一部を通報者が受け取れる。

 同様の仕組みは米司法省も24年8月に導入。企業などの不正を直接通報した個人に報奨金を支払うパイロットプログラムの運用を始めた。

 公益通報者保護に詳しい柿崎環・明治大教授(会社法)は「日本は保護される通報者の範囲がEUに比べてまだ狭く、通報者の心理的安全性を確保するためのフォローアップ体制なども遅れている」と指摘する。

 公益通報者保護法のさらなる改正に向けた今後の論点として、配置転換などを含む不利益取り扱いの立証責任の転換▽通報窓口の整備などが義務づけられる企業規模の引き下げ▽虚偽通報への対応――などを挙げた。

 柿崎教授は「労働者が通報をためらう一番の理由は通報後の嫌がらせや不当な配置転換などの不利益取り扱い。この立証責任の転換にもメスを入れないと法律が前に進んでいかない。制度の周知を進め、通報は密告ではなく社会的意義があり、奨励されるべきものだという企業文化を醸成していくことが必要だ」と話している。【金森崇之】

毎日新聞

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