後発地震注意情報 防災対策必要だけど「物価高」 どう両立させるか

2025/12/13 16:00 

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 8日深夜に青森県東方沖を震源に発生した地震では、青森県八戸市で震度6強を観測した。気象庁は「北海道・三陸沖後発地震注意情報」を初めて発表し、発表から1週間、対象の住民に防災対応を呼びかけている。

 実際に12日には、北海道から東北の広い範囲で最大震度4を観測する地震が起きた。

 該当する地域にとどまらず、年の瀬に改めて災害への備えを考えたいが、今年は値上げラッシュによる生活必需品の相次ぐ高騰で、家庭の防災対策が後回しにされがちになっている傾向もある。予算が限られる中、どう準備すればいいのか。

 ◇かけたい費用と実際に差

 調査会社インテージが今夏にまとめた「防災意識」に関する調査(全国15~79歳の男女5000人を対象)によると、過去1年間での防災対策への1人当たりの実際の支出額は、前年より微増の2892円だった一方、「今後かけたい費用」は5473円で、前年の調査から5%近く減った。

 防災対策についての自己評価を聞くと、「できている」と自信を持って答えたのはわずか1・8%だった。

 インテージは、物価の高騰や2024年の能登半島地震後に上昇した防災意識が徐々に薄れたことが要因で、「かけたい金額」と「実際の支出」に約2倍の差が生じていることから「予算面でも意識面でも伸び悩みが続いている」と分析する。

 一方で帝国データバンクが発表した今年値上げされた食品は、昨年の1・6倍の2万品目に上った。来春にかけて値上げラッシュの動きは「一時的に収束する見通し」とするが、円安水準の長期化や原油高を背景に価格引き上げの動きが広がる可能性も残るとも指摘しており、しばらく状況は変わらなさそうだ。

 ◇最優先の三つの対策

 では、節約と防災対策をどう両立させればいいのか。

 お金と防災に詳しいファイナンシャルプランナーで、NPO法人東京都防災士会理事長の梅田雅美さんは「生活の質を落としたり、家にこもったりするなどの極端な節約や我慢はすべきではない」とした上で①水②トイレ③電源――の三つは「節約志向の中でもそろえていってほしい」と強調する。

 中でも水は断水で枯渇すれば、脱水症状などの命にも関わるため、最優先でそろえたいという。

 内閣府が推奨する備蓄の目安は1日1人3リットル、最低3日分以上とされるが、梅田さんは夏場や首都直下型地震などの場合に備えて、2週間程度を目安にストックする余裕がほしいという。

 ただ、都心部などでは自宅に十分な置き場がないことがほとんど。そういった場合は、近くに給水場があるかどうかや、マンション住まいであれば非常用の水の備蓄がないかなどをまずチェックすることを勧めている。

 それでも不十分な場合は、キャンプなどで川の水をろ過して利用することもできる小型の簡易浄水器の購入を勧める。

 「大腸菌を含む病原菌まで除去できるなど高性能なものがあれば、風呂や屋外にためた水などをろ過して安全に飲料や調理用として使用することもできます」

 数千円程度の初期投資で安心につながるという。

 ◇ペット用のシートは注意

 断水でトイレが使えなくなった場合の手段として「100均」でも買え、犬猫の排せつ物を吸収するペットシートなどの代用を勧めるケースもあるが、梅田さんは注意が必要だと指摘する。

 一時的に水分を吸収はするものの消臭効果が弱いものもあり、通常のビニール袋に入れると臭いがもれやすい。さらに安価なものは抗菌加工がされていない場合もあるためだ。

 「普段のようにすぐに行政がゴミを回収してくれればよいですが、災害で収集がしばらく途絶える中で放置すれば、感染症などのリスクが高まる可能性もあります」

 30回分で比較した場合、非常用の簡易トイレと100均のペットシートの差は多くても数千円程度。非常用トイレは凝固剤で尿や便を安全に固め、処理も容易なため、避難所や在宅避難のどちらにおいても推奨される。保管スペースもそれほどかからないことから、簡易トイレを備えてほしいという。

 電源もスマートフォンがリアルタイムな情報を得るためのライフラインになっているため、ぜひとも備えたい。

 携帯電話であればソーラーパネルで充電できるタイプのバッテリーがあれば足りるが、余裕があればある程度大型のポータブル電源も検討したい。

 安くても数万円と高額だが、真夏の被災でも扇風機程度は回せたり、明かりとしても使えたりするなど安心だという。車がある家庭は買い換える際に、給電機能のある自動車を検討するのも一案だという。

 「蓄電池は高額に見えますが、耐用年数で割ってみれば毎年の出費は1万円程度。ここをケチらずに、携帯電話の通信料といった固定費など家計全体の無駄を見直すこともしてほしい」

 ◇「オーダーメード」が〇

 市販されている防災リュックは便利だが、家にあるもので代用できることも多く、必要なものに絞って買い足していく方が節約できる。

 まず無駄になりやすいのが非常食だ。

 調理がしにくい高齢者などでなければ、特別に非常食を購入せずとも食料品棚にある缶詰や乾麺などとカセットコンロで十分に調理できる。

 「スーパーのセールの時に保存期間の長い麺類などの乾物や缶詰などを多めに購入し、定期的に使っては消費分を買い足していくことで、コストを抑えることができます。最近はレトルトやフリーズドライの商品もおいしくなっています」

 梅田さんが勧めるのは、家族全員がそろった際に実際に数時間、電源や水道を使わずに試しに過ごしてみる在宅避難体験だ。

 「寒さは布団でしのげそうだが、夏場は水はすぐになくなりそうだ」「トイレの処理が意外に大変」など、我が家にとっての優先度の高いグッズがわかってくるという。

 梅田さんは「各自に合ったオーダーメードの防災の準備が無駄が最も少ない。一気に買うのはハードルが高いので、防災の日や国内で災害が起きて意識が高まった際に一つずつ買いそろえていくなど負担のない範囲でそろえてほしい」と勧める。

 ◇飲料メーカーが勧める水の備蓄法は?

 最優先の水だが、コスパよく入手するにはどうしたらいいのか?

 飲料メーカー「ライフドリンク カンパニー」(大阪市北区)が今年行った調査では「家族全員3日分」を確保できている家庭は3割にとどまり、「全く備蓄していない」(13%)、「少しはあるが足りるか不安」(24・8%)など1日分も準備できていない家庭が4割近くに上っている実態が浮かんだ。

 執行役員の浅井祥平さんによると、災害発生直後などに危機意識が高まると、大手通販サイトなどでは飲料水などが品薄になり、高値になる傾向があるという。

 浅井さんが家計を守るために勧めるポイントは「急にそろえないこと」。オンラインストアなどで定期的に水をまとめ買いし、使いながら買い足して一定量を備蓄していく方法「ローリングストック」を日ごろから徹底することで、最大限の節約効果を得られるという。

 試算では、500ミリリットルのペットボトルをコンビニなどで単品買いした場合(1本120円)と、オンラインストアで24本入りケースをまとめ買いした場合(1ケース約1160円・1本あたり約48円)で比較したところ、節約額(1日の消費量2リットルで換算)は1人あたり1日288円、1カ月で8640円ほどになる。

 定期購入は、車で買いに行くガソリン代や時間も抑えられ、お年寄りなども利用しやすい。またローリングストックは実際に使おうとした際に起こりがちな賞味期限切れによる心配も減らすことができ、災害や値上げリスクを軽減しながら、生活と防災を両立できるという。【稲垣衆史】

毎日新聞

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