地震とクマを結びつけるデマ投稿相次ぐ 専門家「冷静に判断を」
青森県で8日夜に震度6強を観測した地震と、東北地方で深刻なクマ被害とを結びつける投稿が交流サイト(SNS)で相次いでいる。過去の大規模地震でも動物が絡んだデマが広がった。防災心理学の専門家は冷静な対応を呼びかけている。
「冬眠中のクマが地震で起きて出没するのでは」「クマは地震を予知して冬眠しなかった」。青森県八戸市で震度6強を観測した地震の翌9日、X(ツイッター)にはこうした投稿が相次いだ。「野生動物は自然の変化の兆候を察知できる」と投稿を肯定する反応もあった。
クマの生態に詳しい北海道大大学院の坪田敏男教授は「地震の揺れで冬眠中のクマが目を覚ます可能性は低い。仮に目を覚ましたとしても一時的で、その後ずっと起きていることは考えにくい」と語る。
環境省によると、クマによる人身被害者数(速報値)は11月末時点で230人に上り、記録が残る2006年度以降で最多。このうち東北だけで7割弱の154人を占める。
坪田氏は、クマの出没が多かった理由は餌のドングリが凶作だったことが主因とし、地震の予知と結びつけた見方は「根拠がない」と否定する。
ネットやSNS上で流れてくる「情報」は、災害時の頼みの綱の一つ。だが大きな災害が起きる度に、デマや虚偽情報はネット上で繰り返される。
16年の熊本地震では「ライオンが放たれた」というデマが、無関係のライオンの画像とともに広まった。18年の大阪府北部地震でも「シマウマ脱走」という情報が画像付きで掲載された。
なぜ、災害時に動物を絡めた誤情報が広がりやすいのか。兵庫県立大の木村玲欧教授(防災心理学)は「動物は人間の力で完全に制御できないため」とみる。「日常でも制御できない動物が大地震という非常時にパニックになるというデマは人々に信じられやすく、不安を助長しやすい」と語る。
木村氏は対策として「なるべく早く、メディアが専門家の見解を報道することや、自治体が公的情報を発信することが大切だ」と指摘。「人は、知った情報が確度の低いものでも『伝えたい』という善意がある。拡散することで、誤った情報でも正しいものとして広がる恐れがある。公式情報や報道にアクセスし、冷静に判断してほしい」と話した。
日本赤十字社が7月に実施した調査では、災害時に4人に1人が、こうしたうその情報に接していた状況が明らかになった。
調査はネット上で、北海道、東京、大阪など7都道府県の男女1200人に防災に関する意識を尋ねた。災害に関連した虚偽の情報に接したことがあると答えた人は、306人(25・5%)いた。そのうち、うそと気付いて注意喚起したり、ファクトチェックしたりした人が半数程度を占めた一方で、「SNSなどで拡散してしまった」(25人、8・2%)、「虚偽の情報に基づいて行動してしまった」(15人、4・9%)という人も一定数いた。
木原稔官房長官は10日の記者会見で「ネットで虚偽の情報が流れている。社会経済活動や災害対応に影響が出る恐れもあり、許されるものではない」と指摘。「政府・自治体や報道機関の情報で確認をしていただきたい」と呼びかけた。【洪玟香、寺町六花】
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