北川進さんノーベル化学賞 関係者「待ち焦がれていた」 歓喜広がる

2025/10/09 20:12 

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 2025年のノーベル化学賞に京都大高等研究院特別教授の北川進さん(74)が選ばれた。京大に在籍する研究者のノーベル賞は特別教授の本庶佑さん(83)が18年の生理学・医学賞に輝いてから7年ぶりで、教員や学生らに歓喜が広がった。北川さんは受賞決定を受けた記者会見で、伝統の研究精神や次世代育成について語った。

 京都市左京区の京大百周年時計台記念館で8日午後8時に始まった記者会見は、最初に湊長博学長が「京大の一員として本当にうれしい。我々はまだ底力を持っている」と喜びを語り、北川さんについて「京大の化学のメインストリームを歩いてこられた。ここ1年は研究担当理事として大学改革に力を注いでいる」と紹介した。

 北川さんは「環境に恵まれた。退職年齢を過ぎても研究させていただいている」と感謝。「突っ走って失敗もいろいろあり、一緒に研究した皆さんも大変苦労されたと思うが、そういう人たちの支えがあった」と述べた。

 京大の化学系について「基礎的なこと、誰もやっていないこと、面白いことをやる」と語り、「こういう思想と伝統に私は恵まれた。設備に恵まれたわけではない」と強調。政治の影響が濃い東京との距離にも言及し、「精神的に自由。面白いことをやっても、ダメだと言って足を引っ張る人はそんなにいないと思う」と述べた。

 24年から研究推進担当理事で副学長も務めており、「京大のために、若手を評価しサポートするシステムをしっかり作りたい」と抱負を述べた。会見中に文部科学相と科学技術担当相からかかってきた電話には、若手が研究時間を確保するための支援人材の増員や、報酬面での待遇改善を求めた。

 会見後は報道各社の個別取材も受け、北川さんが館外に出たのは午後11時15分ごろ。一目見ようと待ち続けていた100人近い学生らから拍手と祝福の言葉を受け、記念撮影に気さくに応じていた。

 翌9日午前9時過ぎからは「一夜明け」の記者会見に臨んだ。次世代に向けて「京大の伝統でもあるが、知的好奇心、面白いことをやる、一からクリエートする。ますますチャレンジ精神でやっていただきたい」と改めて呼びかけ、「これからの研究は環境、エネルギー、生命、医療と、いっぱい課題がある。やることは山積している」と述べた。【太田裕之、大東祐紀】

 ◇「待ち焦がれていた」

受賞決定の知らせに、京都大の学生や教員らは口々に偉業をたたえた。

 文学部2年の小平懐世(かいせい)さんは「受賞を知って京大に来たんだなと実感したと同時に、このような環境で学べていることが光栄」と笑顔。大学院工学研究科建築学専攻の清山陽平助教は「結晶構造という『かたち』から新しい着想を得たということで、分野や世界のスケールは違えど、同じ工学に携わる者として大変刺激を受けた。これからも、かたちを端緒に自由で大切な探求を続けていこうと背中を押していただいた」と語った。

 京都大の総合研究推進本部で働いたことがあり、北川さんら研究者の支援に携わった経験のある桑田治さんは「(北川さんは)長年京大で研究し、後進の育成にも力を入れてきた。いつノーベル賞を取ってもおかしくないと待ち焦がれていた。『ようやく』という思いで、とてもうれしい」と快挙を喜んだ。研究者が研究と教育に集中できるよう支援する、裏方の重要性にも理解があるという北川さん。桑田さんは「受賞を機に、研究を支援する仕事にも注目が集まるといい」と話した。【日高沙妃、資野亮太】

 ◇母校の校長「学校の誇り」

 北川さんの母校・京都市立塔南高(現開建高)の尾崎嘉彦校長は「出身校の校長として非常にうれしく、誇りに思う」と喜んだ。新型コロナウイルス禍前には生徒が定期的に研究室を訪問。2023年4月の開建高の開校式に北川さんが出席するなど、同校との交流は続いている。

 北川さんについては「とても気さくで、次世代の人材育成を大切にしている」。今では年に1回、北川さんのもとを訪れ、学校の教育理念などの指導・助言を受けている。

 9日朝の各ホームルームでは在校生から喜びの声が上がったという。「生徒にとっても今後の学びの励みになる。学校の誇りです」と顔をほころばせた。【日高沙妃】

 ◇「面倒見のいい先生」

長年研究をともにした同僚らも8日夜の記者会見に同席し、快挙を祝福した。

 京都大物質―細胞統合システム拠点(アイセムス)で北川さんらと共同研究を行う特定拠点准教授の樋口雅一さん(50)は「驚きと感動ですね。ノーベル賞で多くの人に(研究成果を)知ってもらうきっかけになる」と笑顔を見せた。

 樋口さんは2004年に北川さんの研究室に入門。「当時は専門分野が違う研究室に入ったが、私のプレゼンの時には、いつもフォローしてくれた」と振り返り、「他者を大事にされる先生。だから世界中から仲間がどんどんやってくる」。プライベートでも親交があり、「もちろん厳しさはある。でも、研究室で私に怒っても、飲み会ではいつも柔和な表情ですね。僕以外に怒るのは見たことないです」と笑った。

 7年前に研究室に加わった大竹研一特定拠点准教授(37)は「個々の興味を尊重しつつ、放任主義ではなく、きちんと指導してもらえる。論文を送ってもすぐに返事をしてくださる。面倒見のいい先生」と強調した。【大東祐紀、太田裕之】

毎日新聞

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