新アリーナはJR松山駅西?それとも隣町? 構想の先行き見通せず

2025/10/07 14:20 

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 愛媛県松山市がJR松山駅西側に計画中のアリーナ建設構想を巡り、先行きが見通せなくなっている。市は「最短で着工は2029年度、完成は31年度」と見込むが、駅舎がリニューアルされて1年が経過した今も、予算規模や事業手法などの具体案は示されていない。アリーナは地元のプロバスケットボールチームの本拠地として計画中だが、隣接する愛媛県松前町(まさきちょう)も建設計画を発表し、「アリーナ争奪戦」になりかねない情勢だ。まちづくりの専門家は「状況が変わった今こそ慎重になるべき。焦って先を急ぐと『不採算施設』になりかねない」と警鐘を鳴らす。

 アリーナは、市が取得予定のJR松山駅の車両基地跡地(約9250平方メートル)に計画。24年11月から検討委員会(計5回)で議論を重ね、基本計画を今年7月に策定した。現在は民間事業者数社からアイデアを募って意見交換している段階だ。25年度中には外観や座席数、事業費などが異なる数パターンのモデルプランを作成。26年度中に一つに絞ったプランで業者を公募し、土地整備完了後の29年度中の着工を目指す。

 整備の主な目的は、松山市がホームタウンの男子プロバスケ・Bリーグ所属の「愛媛オレンジバイキングス」(2部)の新たな本拠地を作ることだ。5000席以上のアリーナは、Bリーグが来季から導入する最上位カテゴリーへの参入条件の一つとなっている。一方、今年6月にチームの運営会社会長に就任したソフトウェア開発会社「サイボウズ」(東京都)の青野慶久社長は、松山市にこだわらず、松前町や今治市など愛媛県内の他の自治体でも立地を検討する考えを示した。

 青野氏の発言について、松山市の担当者は「想定外で寝耳に水。松山ありきと思っていた」と明かす。青野氏は、9月の報道陣の取材でも「(松山は)立地がよく有力な候補地」としながらも、「県全体で議論したい。(現時点では)どこが有力かいう話はすべきでない」との考えを改めて表明している。市は「青野氏は建設や運営、資本面でも関わっていく意思がある。強力な味方だ」と歓迎する一方、「バイクス(愛媛オレンジバイキングス)のホームアリーナという前提が崩れれば、(計画は)白紙にせざるを得ない。痛手だが相手もビジネスなので、松山に決めろとは言えない」と苦しい胸の内を明かす。

 松山市の「苦境」に追い打ちをかけるように、9月下旬には松前町もアリーナ建設構想に名乗りを上げた。田中浩介町長は記者会見で、アリーナについて28年をメドに整備するスケートボードや自転車競技などの拠点施設の次の段階の計画と説明。「(同じ)圏域に二つはいらない。松山が実現すれば(町内での)計画実行は難しい」との姿勢を示した。一方で、民間企業からの提案があれば建設の可能性があることも示唆した。

 Bリーグが最上位カテゴリーへの新たな参入条件を打ち出したことで、全国の他の自治体でもアリーナの建設ラッシュとなっている。スポーツ庁によると、1月現在で計45件の新設や建て替え計画が進行しているという。まちづくりに詳しい名古屋工業大学の秀島栄三教授(都市計画)は、新設が相次ぐアリーナについて「人口減少が加速する中、都市間競争がより激化し、生き残れなくなる可能性がある」と分析。「早期の駅周辺整備を願う県民の心情は分かるが、急ぐと失敗のリスクもはらむ」とし、「状況が変化した今こそじっくり見極め、松山ならではの施設にするなど、(アリーナに)数十年後も多くの利用者が訪れるよう地域とアリーナの将来を広く深く議論するべきではないか」と指摘する。

 松山駅再開発に松山市と“一体化”で取り組んでいる愛媛県土木部の橋本博史部長は、毎日新聞の取材に「駅周辺のまちづくりは市の仕事。高架が完成した今も進んでおらず、具体像は示されていない。アリーナも含めてスピード感を持って取り組んでほしい」と述べて市に苦言を呈した。一方で、県が取得予定の駅周辺の土地の活用方法については「市のプランを見て決める」とし、具体策を示さなかった。

 松前町のアリーナ構想発表後、松山市の野志克仁市長は「構想は将来的な可能性と理解している。今後もサイボウズと連携していく」とのコメントを出した。市の幹部も「(決めるのは)青野さんの権限が大きい。(他の自治体よりも)松山が最適だと思ってもらえるようにしていきたい」と話す。

 市の基本計画では、全国の同規模のアリーナの整備費は80億~220億円と示されるが、資材価格や人件費の高騰で今後さらに経費が膨らむ可能性もある。市民の間からは「(隣県の)高松市のアリーナで十分。無駄な箱物はいらない」「施設よりも道路を早く作ってほしい」などと歓迎しない声も聞かれており、今後の動向が注目されている。【広瀬晃子】

 ◇松山市のアリーナ建設構想の経緯と今後のスケジュール

2024年9月 野志克仁市長がアリーナ構想を発表

11月 検討委員会での議論を開始

25年7月 基本計画策定

8月 民間事業者から意見や提案を聞く調査を開始

25年度中 複数のモデルプランを公表

26年度中 モデルプランを絞り、業者を公募?

28年度中 区画整理完了

29年度中 着工か?

31年度中 完成か?

※市への取材に基づき作成

 ◇Bリーグ

 2016年に開幕した男子プロバスケットボールリーグ。B1、B2、B3で構成しているが、26年から競技成績による昇降格制度を廃止。新たな制度では、最上位カテゴリーは、試合の平均入場者数4000人以上▽売上高12億円以上▽5000人以上収容のアリーナを確保――が参入条件となる。松山市がホームタウンの「愛媛オレンジバイキングス」も参入を目指す。

毎日新聞

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