「諦めたら試合終了」赤字のJR大糸線、鉄路の存続に“バス増便”策

2025/08/24 07:30 

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 「白馬乗鞍には止まりますか」。快晴に恵まれた7月中旬の土曜日。JR糸魚川駅(新潟県糸魚川市)アルプス口で、大きな登山用リュックを背にした2人組の男性客が運転手に行き先を確認し、大型バスへ乗り込んだ。

 このバスは、JR大糸線が走る長野県の白馬駅(白馬村)と糸魚川駅間を結ぶ臨時便。大糸線と北陸新幹線の接続が不便な時間帯に、列車とは別にバスを増便して輸送力を高め、利用客の増加につなげるのが狙いだ。

 ◇1便あたり9・6人

 バスは糸魚川駅を出ると、大糸線と並行する国道148号を走り、外国人客に人気の白馬エリアを目指す。新幹線からの乗り換え客がターゲットで、週末や夏休み期間中など利用が多い時期に1日3往復する。

 増便バスは北陸新幹線の敦賀延伸を受け2024年6月から運行が始まったが、3月までの1便あたりの利用は平均で9・6人にとどまった。

 糸魚川市都市政策課の内山俊洋課長は「年度途中からで周知が難しかった」と反省を口にする。4月以降は白馬乗鞍や栂池高原、白馬岩岳など観光地へ直結するルートに変更した。

 大糸線は北アルプスや河川など風光明媚(めいび)な景色が特徴だ。鉄道に詳しい糸魚川市議の和泉克彦さんは「生き残るためには、観光路線として魅力を発信することが重要だ」と提言する。

 ◇大幅赤字も客増えず

 100円を稼ぐのに2747円かかる――。大糸線の経営状況は、北側で特に深刻だ。

 JR西日本が公表した21~23年度の平均収支によると、南小谷―糸魚川間は運輸収入2000万円に対し、営業費用5億7000万円と大幅な赤字。24年度の区間別の輸送密度(1キロ当たり1日平均乗客数)は150人と前年度の110人よりは増えたが、国がローカル線の存廃などを協議する目安の「1000人未満」を大幅に下回っている。

 JR西と沿線自治体は、路線の将来像を協議しているが、JR西は「鉄道とバスを併せても、輸送需要の大幅な改善につながるほどの利用には至っておらず、大量輸送の観点で鉄道の特性が発揮できる状況には至っていない」(金沢支社)との姿勢で、すでに結論ありきの状況だ。

 ◇「諦めたら試合終了」

 長野側の小谷村は、村独自で大糸線振興会議を立ち上げた。オリジナルグッズの作製やファンミーティングの開催など活性化に懸命だ。村観光地域振興課の宮嶋喜久係長は「1人でも多くの方に乗っていただけるよう、利用促進に努めたい」と話す。

 「諦めたらそこで試合は終了だ」。大糸線活性化協議会会長で糸魚川市の久保田郁夫市長は、鉄路の存続に向けて、粘り強く取り組む姿勢だ。災害に備え交通網を多重化する必要性を特に強調し、新潟と長野が鉄路で結ばれる意義を訴える。鉄道ファンや乗客でつくる「大糸線応援隊」には約3800人が登録している。

 「ローカル線は人間にとっての毛細血管と同じだ。日本の国土から、その毛細血管をなくしていいのか」。久保田氏は地方にこそ鉄道が欠かせないと訴える。【神崎修一】

 ◇JR大糸線 

 長野県の松本駅(松本市)と新潟県の糸魚川駅(糸魚川市)を結ぶ全長約105キロの路線。1957年に全線開通した。南小谷駅(長野県小谷村)を境に、南側をJR東日本、北側をJR西日本が運営しており、全線を通して運行される列車はない。南側は、通学などの利用のほか、北アルプスへの登山客やスキー客らの輸送も担っており、特急列車も走る。北側は電化されておらず、ディーゼル車が1日9往復するのみだ。

毎日新聞

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