2040年に理工系技術者が100万人不足と推計 私大を重点支援へ

2025/06/18 21:52 

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 2040年に理工系技術者が100万人以上不足し、大卒の文系人材は約30万人が職に就けない――。18日に開かれた私立大学の在り方を検討する文部科学省の有識者会議で、そんなデータが示された。理工系人材の将来的な需要増に対応するため、文科省は理工系大に対する私学助成金のさらなる重点配分を検討している。

 データをまとめたのは経済産業省など。デジタル化の急速な進展などにより産業構造が変わり、労働需要の在り方も変化すると予想されている。40年の就業構造の推計によると、事務や販売、サービスなどの従事者は生成AI(人工知能)やロボットを用いた省力化により需要が減少。文系人材は約30万人の余剰が生じる可能性があるとした。

 AIやロボットの活用を担う理工系の技術者の需要が高まるものの、大学・院卒の理系人材が100万人以上不足するおそれがあり、職種や学歴のミスマッチが生じる可能性があると指摘した。

 文科省の学校基本調査によると、国公私立大の専攻分野別の入学者の割合(20年度)は社会科学32%、人文科学14%と高い割合で推移。一方で理工系は17%(理学3%、工学14%)にとどまり、経済協力開発機構(OECD)の19年の平均値27%も下回っている。理工系で学ぶ学生を増やし、社会のニーズに応じた人材育成を進める必要があるとしている。

 24年度の国公私立大の理工農系分野の学部生のうち約6割が私立大に在籍しており、理工系の人材育成に私立大が大きく貢献している。しかし、理工系学部は設備や人件費が高額になることから運営コストがかさむ。

 この日の会議では、委員を務める阿部守一長野県知事が、運営コストの少ない学部が多い地方の私立大の現状を報告。理工系大が少なく、地域が求める人材とのミスマッチが起きているとして「理工系人材の育成は国全体でサポートしてほしい」と訴えた。

 文科省はデジタルや脱炭素といった成長分野への人材育成を重視する政府方針に沿い、23年度から理工農系学部を有する私立大に対しての私学助成金の新たな算定単価を導入している。従来の教職員数や学生数に応じた配分に加え、理工農系学部などでは他の学部よりも高い単価を設定し、25年度に単価をさらに引き上げた。

 しかし、理工系は実験や実習が多く教育研究費支出に占める国からの補助割合は文系よりも低い傾向にある。このため学費も高額になりやすく、経済的負担の重さから理系を回避する学生も一定数いるとみられる。

 文科省は26年度の概算要求で、私学助成金の理工農系学部の単価をさらに引き上げる方向で調整中だ。また、私立大の研究力を強化し国際競争力の向上を目指すために、優れた研究を実施している私立大の研究拠点への助成金の重点配分も検討している。

 文科省幹部は「大学の自然淘汰(とうた)に任せるのではなく、(今後の産業構造に対応できるよう)理工系分野がこれ以上減らないような政策を打っていかないといけない」と話した。

 中央教育審議会(文科相の諮問機関)は2月、急速な少子化を見据えた大学など高等教育の将来像をまとめた答申を公表。これを受け、文科省は国公私立大の規模や質の在り方について、今後10年程度の財政支援の取り組みなどを政策パッケージとして今夏をめどに示すとしている。【木原真希】

毎日新聞

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