原爆の真実はなぜ隠されたのか 検閲と報道統制の実態
人類史上初めての核兵器による惨状を毎日新聞記者が撮った写真の多くは当時、日の目を見なかった。紙面に掲載されたわずかな写真も、真実を大きくゆがめる報道に使われた。
◇掲載されなかった負傷者の写真
「新型爆弾刎(は)ね返した廣島市」
1945年8月11日の毎日新聞に掲載された写真に添えられた説明文だ。
原爆投下3日後の広島を取材して大阪にとんぼ返りした写真部の国平幸男記者が撮影した2枚が、この日の紙面に掲載された。1枚は臨時県庁となった警察署に救援物資を運び込む様子、もう1枚は焼け跡に再開した町会事務所に立つ男女が写っている。
見出しは「危険は閃光(せんこう)の一瞬」「この残虐に廣島市民は敢闘してゐる」。消滅した街や負傷した人々の写真は掲載されなかった。
国平記者は戦後執筆した回想記でこう記した。「『国民の戦意を阻喪する』という理由で、その後も生々しい惨状を伝える写真は検閲でボツにされたのだ」(95年7月25日夕刊)
山口支局長の渡辺喜四郎記者が撮影した写真は、45年8月12日の西部本社版に2枚が掲載された。復旧作業に集まる人々を捉えた写真からは、やはり深刻な被害はうかがえない。写真説明は「廣島市・逞(たくま)しき復興へ」だった。
◇終戦で明らかにされた原爆の被害
8月9日に米軍は長崎にも原爆を投下し、ソ連が対日参戦した。日本の敗戦は秒読み段階だったが、原爆被害の実態は国民に伏せられた。「新型爆弾」を巡っては被害の軽減策を強調するような報道が続く。「備あれば熱線も無為」(8月12日朝刊)、「外衣は白色に 紫外線眼鏡も効果が大きい」(同14日朝刊)
それが一変したのは8月15日。この日の朝刊は、昭和天皇がラジオで戦争終結を伝えた「玉音放送」の内容を報じるため、配達を午後に遅らせる特別措置が取られた。
表裏2ページの紙面は、1面に「終戦の詔書」の内容、2面は「最大の凶器原子爆弾 乗客の遺骸ズラリ電車のなかにその儘(まま)の姿で」の見出しで、広島の惨状を初めて詳報した。記事に署名はないが、広島の原子野を見た記者による迫真のルポだった。
その後は堰(せき)を切ったように原爆報道が続く。同23日朝刊は「今後70年は棲(す)めぬ」という衝撃的な説が報じられる。9月には被爆地に入った米軍調査団に同行した記事を連日掲載し、同13日朝刊は無残に崩落した広島県産業奨励館(現在の原爆ドーム)の写真を大きく載せた。
◇再び隠された事実
しかし、原爆被害に迫ろうとする報道は長くは続かなかった。日本を占領した連合国軍総司令部(GHQ)が同19日に発令した「プレスコード」は新聞や出版活動などを制約し、占領軍批判につながる原爆報道は抑え込まれた。さらに米軍は放射線障害を軽視する談話を発表するなど、被害の過小評価や隠蔽(いんぺい)を重ねた。
広島原爆の犠牲者数として用いられる「死者14万人(誤差プラスマイナス1万人)」は、放射線による急性障害が一応収束したとされる45年12月末までの推計値だ。生き残った人々がなお命を奪われていた時期、その事実を告発する記事はなかった。毎日新聞が2002年、創刊130年を機に刊行した社史は占領下の原爆報道をこう記す。「被爆者医療に携わる医師らの苦悩も、戦争での原爆使用を批判する論調も、紙面化されることはなかった」
毎日新聞記者が原爆投下直後から45年末までに広島で撮影した写真は、90枚以上が確認されている。被爆の実相を捉えたそれは、人類が繰り返してはならない過ちの記録だ。【宇城昇】
◇
記事の掲載紙面は注釈のあるものを除いて大阪本社発行版。
◇毎日新聞社など原爆投下直後の広島に入った報道機関の所蔵写真を紹介する企画展が、広島と東京で開催されている。
<広島>企画展「ユネスコ『世界の記憶』登録候補 広島原爆の視覚的資料―1945年の写真と映像」 広島市中区の原爆資料館東館で9月16日まで。
<東京>被爆80年企画展「ヒロシマ1945」 東京都目黒区の東京都写真美術館で8月17日まで。
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