「心痛まぬのか」水俣病マイク切り 環境相へ手紙、未認定女性の訴え
水俣病の患者・被害者団体と環境相との懇談が30日、熊本県水俣市で始まる。昨年は環境省職員が団体側の発言中にマイク音声を切る対応を取り、当時の環境相が再懇談に訪れる事態となった。その席で環境相に手紙を渡して苦境を訴えた熊本市の藤枝静香さん(62)が、今年2日間に拡大された懇談に臨む。あれから環境相は交代し、患者認定を求める藤枝さんの申請も退けられたまま。「実情を知ってほしい」。藤枝さんは切実に訴える。
1962年、山あいの熊本県八代市東陽町で生まれた。原因企業チッソによる不知火海への水銀排出が続いていた時期で、両親は不知火海でとれたイワシやキビナゴ、アサリなど魚介類を仕入れ、地元で行商をし、藤枝さんもそれらの魚介を家庭で食べていた。
幼い頃から体が弱く、高熱に苦しんだり、黄だんが出たりした。なかなか歩くことができず、父が山で切って組んだ竹につかまって練習を繰り返し、5歳でようやく歩けるようになった。小学校に上がる頃、脳性小児まひと診断された。
成長してからも体の不調は続いた。県立松橋養護学校(現・松橋支援学校)の高等部時代、修学旅行の食事で友人らが「おいしい」と喜ぶのに、自分は味もにおいも分からなかった。ただ、結婚後は県外に出て子ども2人を育て、水俣病を特に意識しなかった。
一変したのは約10年前のこと。母有枝(ありえ)さんに手足の震えなど体調不良が続き、水俣病の認定申請を相談しようと「水俣病センター相思社」(水俣市)を訪ねると、センターの関係者から藤枝さん自身が水俣病ではないかと声をかけられた。脳性小児まひと胎児性患者の症状が似ていることが理由だった。改めて受診し、胎児性水俣病の疑いと診断された。
「これまでの周囲との違いを思い返し、謎が解けたような気持ちだった」。母と共に公害健康被害補償法に基づく水俣病の認定を申請した。しかしハードルは高く、母子とも棄却。母は再申請中の2024年2月に90歳で亡くなった。
それから3カ月後の5月1日、水俣病の「公式確認の日」に市内で開かれた慰霊祭に、藤枝さんは母の遺影を携え参列していた。同じ日、別の場所であった懇談で、環境省職員が患者・被害者団体側の発言を遮ってマイク音声を切った。後の報道で知った藤枝さんは、懇談にいた伊藤信太郎環境相(当時)や木村敬熊本県知事がその場で対処しなかったことに「心は痛まないのか」とあぜんとした。
環境省が問題を受けて7月に設定した再懇談には、「水俣病胎児性小児性患者・家族・支援者の会」の一員として藤枝さんも参加した。事前に伊藤氏に宛てて手紙を書くことにし、まひで自由のきかない手を固定して「母の分も伝えにゃいかん」と一字一字つづり、A4用紙5枚を書き上げた。
「『胎児性』と診断された時『自分が魚を多食したから』と泣きながら顔をおおった母の指の数本は曲がっていました」「声を上げようにも上げられない立場の人、母を泣かせたのは誰かを真剣に考えてほしいです」
再懇談の日、藤枝さんが読み上げるのを聞いた伊藤氏は、目に涙を浮かべて聞き、手紙を受け取った。その約3カ月後、環境相は伊藤氏から浅尾慶一郎氏に代わった。
マイク問題後、環境省内には水俣病対策を部署横断的に進めるタスクフォースが設けられた。だが、認定基準の見直しなど患者・被害者団体側の求めにはほとんど応じていない。
頭痛や耳鳴り、手足のしびれなどに苦しみ続ける藤枝さんは、認定を求めて不服を申し立てているが、「やりとりの度に(国側の)返答が変わる」と言い、不信感を募らせる。
母の遺品を整理したところ、藤枝さんを産む前に流産をしていたことを記したメモ書きが見つかった。家族は誰も知らされておらず、母も申請時の聞き取り調査で語らなかった。「『お母さんのせいじゃなか。私たちは悪くなかよ』と認定で証明したい」と藤枝さんは語る。
今年の懇談は、犠牲者慰霊式がある5月1日まで2日間の日程で、浅尾氏が認定患者の自宅や関係施設なども訪問する予定だ。1日で公式確認から69年。「長い間、体と心をむしばまれ、傷つけられてきた。目の前の患者にしっかり寄り添ってほしい」。藤枝さんは母の思いも継いで、懇談で国や県と向き合う覚悟だ。【山口桂子】
◇ことば・水俣病
チッソ水俣工場(熊本県水俣市)の排水に含まれるメチル水銀が魚介類に蓄積し、それを食べた人が発症した神経疾患。工場の付属病院長が患者発生を水俣保健所に報告した1956年5月1日が公式確認の日とされる。国は68年9月に工場排水を原因とした公害病と認定した。2004年の最高裁判決で、被害拡大を防がなかった国と熊本県の責任が確定。25年3月末の認定患者数は熊本、鹿児島両県で計2284人で、うち2073人が亡くなった。
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