「お父さん、見てて」亡き夫は国産紅茶のパイオニア “二六の丸子紅茶”…時枝さんが守り続ける…

2026/03/31 09:49 

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
 「命ある限り続けたい。お父さんには一度飲んでほしかった」ー。国産紅茶発祥の地とされる静岡市駿河区丸子地区で、国産紅茶生産の第一人者とされる夫の遺志を継いだ妻村松時枝さん(82)。夫の二六さん=享年(84)=が急逝してから約1年半、懸命に丸子紅茶を守り続けている。
 日本に紅茶栽培技術を取り入れた旧幕臣の多田元吉が茶園を開拓した同地区で、国内で初めて紅茶用品種「べにふうき」の栽培を成功させた二六さん。全国から茶農家が訪れ、後進の育成にも力を注いだ。和紅茶栽培の伝承と発展に尽力し、ブームの礎を築いた。
 二六さんは70代後半から心臓の病気で体調を崩すことが多くなり、2024年10月、帰らぬ人となった。ただ、その2〜3日前は和紅茶の生産現場に立ち、紅茶作り体験会を開くなど最前線に立ち続けた。時枝さんは「紅茶に対してはいつも真剣だった。本当にこだわっていた」と思い返す。
 「最初は『どうしようか』と紅茶作りを続けようかどうか迷った」と時枝さん。しかし、残った茶畑を見て、思いは一瞬で消えたという。「やっていくしかない」
 紅茶は茶葉を摘んだ後に水分を飛ばす「萎凋(いちょう)」、香りの元となる成分を引き出す「揉捻(じゅうねん)」、「発酵」など大きく五つの工程を経て完成する。1工程当たり少なくとも4時間を費やす作業は、時枝さんにとっては重労働。二六さんの作業の様子を想起しながら約1年間、試行錯誤した。
 「一生懸命やっているけど、『二六の味』と『時枝の味』が違うと言われるのはやっぱり怖い」。時枝さんは紅茶作りを始めてからずっと不安だった。
 そんな時、周囲の声かけもあって昨年10月、世界最大級の茶イベント「世界お茶まつり」に出展することに。「二六さんのと遜色ないよ」「おいしかった」ー。お茶専門家らが時枝さんに声をかけた。「責任感を持って続けて良かった。背中を後押ししてもらって、前に進めるかなと思うことができた」と時枝さんはほほえんだ。お客さんの「おいしい」の一言が時枝さんの原動力になっている。
 時枝さんは朝起きると、二六さんが好きだったミルクティーを入れ、仏壇に供えるのが日課。「お父さんには空から紅茶作りを見守っててほしい。強がって私の紅茶に文句を言ってくるかもしれないけどね」

 <メモ>丸子紅茶 日本紅茶発祥の地、静岡市駿河区丸子地区で生産される国産ブランドの和紅茶。「べにふうき」「べにひかり」など数種類ある。渋みが少なく、優しく穏やかな甘みが特徴。同地区は明治時代に多田元吉がインドのダージリンやアッサムから持ち帰った茶の種を初めて植えた場所の一つ。一度は輸入自由化などの影響で国産紅茶は衰退したが、村松二六氏が研究を重ねて、国内で初めて紅茶用品種の栽培を成功させたとされる。
 
静岡新聞

静岡ニュース

静岡ニュース一覧>

注目の情報