大瀬まつり(沼津市) 女装白塗りで願う豊漁【奇祭を行く】
静岡県東部、伊豆半島の北西端。山と海に囲まれた温暖な岬には毎年4月4日、色鮮やかに飾り立てた漁船が集まり、陽気なおはやしが響く。「ちゃんちゃらおかし、ちゃらおかし」。船の上で踊るのは女装した青年や子どもたち。沼津市の大瀬崎(おせざき)が舞台の「大瀬まつり」はその様子から「天下の奇祭」と呼ばれる。
早朝、同市西浦江梨の港近くの消防団詰め所には、女性用の長じゅばんをまとった青年や子どもたちが集まっていた。顔におしろいをはたき、唇と両頬に口紅を塗る。一行が乗り込む「踊り船」は、前日に住民らが装飾。長さ7メートルほどの竹を立てて支柱にし、大漁旗やこいのぼりを掲げた。船の側面をスギの葉で覆うと迫力が増し、まるで海に現れた怪獣のように見える。
大瀬崎を目指して、いよいよ出航。港内を右回りにゆっくり3周する間、紅白幕を巻いた船のデッキに並んだ青年らは「勇み踊り」を披露する。太鼓や笛の音に合わせ、「セ、セ、セーイ」のかけ声で一斉に踊る。両手に持った日の丸の扇子を振り回すと、船の上はめでたい雰囲気に。かつては「馬鹿(ばか)踊り」と称していたほど、珍妙な舞だ。
沖に出て速度を上げると、旗が風になびき、スギの葉が波を勢いよく切る。大瀬崎近くに着いたら、ここでも右回りに3周しながら勇み踊りを舞う。青年らはそのままの姿で下船して、岬にある大瀬神社の社殿で参拝。海上の安全と大漁を祈願した。桟橋付近は次第に他の集落の踊り船や大漁旗を掲げた漁船が集まり、にぎやかさが増した。
大瀬神社は古くから海の守護神として駿河湾沿岸の住民たちの信仰を集める。4月4日の祭日に沿岸の各地区が踊り船を出すのは、男神である祭神の引手力命[ひきてちからのみこと]を喜ばせるためとされる。詳しい起源は不明だが、市教委によると、明治20年代にはすでにこの種の踊りがあったという。
令和の今、この地域でも人口減少が進む。昨年の踊り船は3隻。10隻以上出ていた昭和の頃と比べると、規模はかなり縮小した。大瀬海浜商業組合の高野貴好組合長(54)は「父親の時代は長男しか乗れなかったようだ」と振り返る。今では小学生も重要な担い手で、女の子の姿もある。
海とともに歩んできた地域にとって、なくてはならない祭り。西浦江梨地区勇み踊り保存会の小林伸一郎会長(51)は「この地に生まれて住み続けている身としては習慣の一部。年度初めの祭りで、時期が来ると、今年も頑張ろうという気持ちになる」と語る。学生も勤め人も農家も関係なく、地域総出で参加するのがこの祭りだ。「中学生の頃から踊り船に乗り、今は娘と息子と一緒に踊っている。規模は小さくなっていくのかもしれないが、代々続いてほしい」
■海のすぐ近くに淡水池
祭りの舞台となる大瀬神社の境内は自然の豊かさや神秘を感じさせる場所だ。紺碧(こんぺき)の駿河湾越しに富士山をはじめとする山々を一望できる境内は静寂に包まれ、波と風の音が心地よい。
境内を大瀬崎の先端に向かって歩くと現れるのが「神池」。波打ち際にありながら真水が湧き、コイやフナといった淡水魚がすむ。海からの距離は近い所で15メートルほどしか離れていない。なぜ淡水なのか、その謎は明らかにされておらず、伊豆七不思議の一つに数えられている。
神池を囲うように群生している約130本のビャクシン樹林も見どころだ。推定樹齢は千年以上。波のようにねじれた太い幹が、長い年月を物語る。日本最北端の自然群生地とされ、国の天然記念物にも指定されている。野村芳照宮司(68)は「緑のパノラマに癒やされ、心が無になる場所。先人から受け継いだ自然を次の世代に残したい」と話す。
<メモ>人口約18万5千人の沼津市は県東部の主要都市。市の南部、伊豆半島北西端から駿河湾に突き出た部分が大瀬崎だ。駿河湾の水深は最も深い所で約2500メートルで、日本一深い湾。多種多様な海中生物が生息し、大瀬崎はダイビングの名所としても知られる。夏は海水浴客でもにぎわう。市中心部のJR沼津駅から車で50分ほど。大瀬まつり当日と夏季などは沼津港からの船も運航される。
早朝、同市西浦江梨の港近くの消防団詰め所には、女性用の長じゅばんをまとった青年や子どもたちが集まっていた。顔におしろいをはたき、唇と両頬に口紅を塗る。一行が乗り込む「踊り船」は、前日に住民らが装飾。長さ7メートルほどの竹を立てて支柱にし、大漁旗やこいのぼりを掲げた。船の側面をスギの葉で覆うと迫力が増し、まるで海に現れた怪獣のように見える。
大瀬崎を目指して、いよいよ出航。港内を右回りにゆっくり3周する間、紅白幕を巻いた船のデッキに並んだ青年らは「勇み踊り」を披露する。太鼓や笛の音に合わせ、「セ、セ、セーイ」のかけ声で一斉に踊る。両手に持った日の丸の扇子を振り回すと、船の上はめでたい雰囲気に。かつては「馬鹿(ばか)踊り」と称していたほど、珍妙な舞だ。
沖に出て速度を上げると、旗が風になびき、スギの葉が波を勢いよく切る。大瀬崎近くに着いたら、ここでも右回りに3周しながら勇み踊りを舞う。青年らはそのままの姿で下船して、岬にある大瀬神社の社殿で参拝。海上の安全と大漁を祈願した。桟橋付近は次第に他の集落の踊り船や大漁旗を掲げた漁船が集まり、にぎやかさが増した。
大瀬神社は古くから海の守護神として駿河湾沿岸の住民たちの信仰を集める。4月4日の祭日に沿岸の各地区が踊り船を出すのは、男神である祭神の引手力命[ひきてちからのみこと]を喜ばせるためとされる。詳しい起源は不明だが、市教委によると、明治20年代にはすでにこの種の踊りがあったという。
令和の今、この地域でも人口減少が進む。昨年の踊り船は3隻。10隻以上出ていた昭和の頃と比べると、規模はかなり縮小した。大瀬海浜商業組合の高野貴好組合長(54)は「父親の時代は長男しか乗れなかったようだ」と振り返る。今では小学生も重要な担い手で、女の子の姿もある。
海とともに歩んできた地域にとって、なくてはならない祭り。西浦江梨地区勇み踊り保存会の小林伸一郎会長(51)は「この地に生まれて住み続けている身としては習慣の一部。年度初めの祭りで、時期が来ると、今年も頑張ろうという気持ちになる」と語る。学生も勤め人も農家も関係なく、地域総出で参加するのがこの祭りだ。「中学生の頃から踊り船に乗り、今は娘と息子と一緒に踊っている。規模は小さくなっていくのかもしれないが、代々続いてほしい」
■海のすぐ近くに淡水池
祭りの舞台となる大瀬神社の境内は自然の豊かさや神秘を感じさせる場所だ。紺碧(こんぺき)の駿河湾越しに富士山をはじめとする山々を一望できる境内は静寂に包まれ、波と風の音が心地よい。
境内を大瀬崎の先端に向かって歩くと現れるのが「神池」。波打ち際にありながら真水が湧き、コイやフナといった淡水魚がすむ。海からの距離は近い所で15メートルほどしか離れていない。なぜ淡水なのか、その謎は明らかにされておらず、伊豆七不思議の一つに数えられている。
神池を囲うように群生している約130本のビャクシン樹林も見どころだ。推定樹齢は千年以上。波のようにねじれた太い幹が、長い年月を物語る。日本最北端の自然群生地とされ、国の天然記念物にも指定されている。野村芳照宮司(68)は「緑のパノラマに癒やされ、心が無になる場所。先人から受け継いだ自然を次の世代に残したい」と話す。
<メモ>人口約18万5千人の沼津市は県東部の主要都市。市の南部、伊豆半島北西端から駿河湾に突き出た部分が大瀬崎だ。駿河湾の水深は最も深い所で約2500メートルで、日本一深い湾。多種多様な海中生物が生息し、大瀬崎はダイビングの名所としても知られる。夏は海水浴客でもにぎわう。市中心部のJR沼津駅から車で50分ほど。大瀬まつり当日と夏季などは沼津港からの船も運航される。
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