工業地の平均上昇率、福岡県が初のトップ 「TSMC」進出効果も
国土交通省が17日発表した基準地価(7月1日時点)で、福岡県の工業地の平均変動率が前年比プラス11・6%と上昇率が全国で1位になった。記録が残る1976(昭和51)年以降、初のトップに至ったキーワードは「Eコマース(電子商取引)」と「工場進出」だ。
「福岡市に近く、九州道福岡インターチェンジ(IC)や福岡都市高速道路にも近い。不動産需要は旺盛で、倉庫の用地はないかと問い合わせがある」。粕屋町の担当者が明かす。町内には上昇率で全国7位に入った地点(プラス25・0%)もあった。
需要高騰の背景には、新型コロナウイルス禍で拡大したEコマースの拡大などに伴う、物流拠点用地の需要増がある。
8月末には、世界大手の投資顧問会社「ラサール不動産投資顧問」や九州電力などが出資する特定目的会社がEコマースの拡大を背景に、地上3階建ての物流施設(延べ約9万2000平方メートル)を町内に完成。他にも、地権者が区画整理事業をして土地を造成する動きがあるという。
粕屋町に近い宇美町や須恵町でも、同じような状況が生まれている。それぞれの町にある地点がプラス23%台と、上昇率でそれぞれ全国9位と10位にランクイン。工業地の平均変動率でも宇美町がプラス23・3%、須恵町もプラス22・4%と高水準に達している。
この傾向は福岡市近郊だけでなく、福岡市から南に約25キロ離れた小郡市でもみられる。交通の要衝で物流施設などが密集する佐賀県鳥栖市に隣接しているほか、大分道のICがあることもプラスとなり、平均上昇率は20・0%に上る。
工業地上昇の要因は他にもある。受託製造の世界最大手「台湾積体電路製造」(TSMC)に代表される半導体関連産業をはじめとした、企業の工場進出ラッシュだ。平均変動率がプラス15・6%になった久留米市では、TSMCの主要取引先「家登精密工業」が久留米・広川新産業団地の久留米市側の用地(約1万平方メートル)に、工場の建設を計画している。
今後も、北九州市では半導体を最終製品に組み立てる「後工程」の世界最大手「日月光投資控股」(ASE)の日本法人が7月末、若松区にある市有地を取得する仮契約を市と締結。自動車関連企業が集積する苅田町では、トヨタ自動車が電気自動車(EV)向けの電池工場を建設し、2028年から生産を始める計画が明らかになっている。
日本不動産研究所の高田卓巳不動産鑑定士は「Eコマースや食品、半導体関連の荷主の需要に加え、物流会社の配送効率化や雇用を確保するための新しい施設に対する需要は顕著だ。地価上昇の傾向は今後も続くだろう」とみる。
福岡大の村上剛人教授(マーケティング論)は「福岡県は九州の中でも人口が集中し消費地に近いというメリットに加え、港や空港、鉄道、道路のインフラが全てそろった拠点で、グローバルな視点から見ても利便性が高い。物流に関していえば、この四つのインフラをうまく融合させることで更に価値を高めていくことができると思う」と指摘した。【下原知広】
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