「後悔しない」ために全力を 国枝慎吾さんが次世代に伝えたいこと

2026/09/23 08:00 

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 車いすテニスで世界の頂点に立ち、現役引退後は次世代の育成にも携わる国枝慎吾さん(42)。東京・有明テニスの森公園で9月5日まで開催された「ユニクロ全日本ジュニアテニス選手権」(日本テニス協会、毎日新聞社主催)で大会アンバサダーを務め、18歳以下のジュニア選手に技術や経験を伝える「チャンピオン教育」では、自身の歩みを語った。

 優勝者らが参加する海外派遣プログラムでの指導にも加わっている。スポーツや海外での経験を通じて、どのような力が身につくのか。次世代に託す思いを聞いた。【聞き手・長野宏美】

 ――大会に出場する選手への講演で準備の大切さなどについて話していました。最も伝えたかったことは何ですか。

 ◆根底にあるのは、後悔しないことだと思うんです。後悔しないためには、準備をしっかりする必要がある。

 自分は、9歳の時に脊髄(せきずい)腫瘍のため車いす生活になったんですけど、一番大事にしてきたのは、後悔しない人生を送りたいということでした。

 それによって、プロになることや、けがから復活するためにいろいろなことを変える決断もしてきました。

 人生を後悔したくない。だから、全てのポイントに全力で取り組んできた。そういったことをジュニアの子たちに伝えたいと思いました。

 ――ユニクロ全日本ジュニアをどのような大会だと考えていますか。

 ◆ジュニアの選手にとって一番大きなタイトルであり続けています。歴史もあり、みんなが目指す、本当にいい目標になっていると思います。

 それに加えて、優勝者らは、米フロリダ州のIMGアカデミーでキャンプをする機会があります。昨年は錦織圭選手が何度も足を運んでくれました。子どもたちにとって、これ以上ない経験ができたと思います。

 今大会で再会した子たちが、キャンプでの経験が生きていると言っていたのが印象的でした。

 ◇若い世代が海外で経験を積む意味

 ――ユニクロとファーストリテイリング(FR)財団は、大会協賛や海外派遣プログラムを通じ、次世代育成に取り組んできました。5年目を迎えますが、継続する中で見えてきたことはありますか。

 ◆テニスの面では海外の選手や錦織選手と打ち合うことで、自分に足りないものが明確になります。それに加えて、生活面でも1週間、フロリダで過ごし、日本とは全く違う環境を体験します。

 彼らにとって刺激のある時間を過ごせる、魅力的なプログラムだと思います。年々洗練され、練習の質も上がっていると思うので、いかに継続させるかが大事です。

 ――国枝さん自身も世界で戦い、引退後はフロリダで指導者の経験を積みました。若いうちに海外へ出て、自分と違う文化や考えの人と接するのはどのような意味がありますか。

 ◆海外の文化に触れて視野を広げることは、彼らの人間性にも大きな影響があると思います。早い段階で、そういった価値観に触れることは大切だと思います。

 ――日本で得られない海外の経験にはどのようなものがありますか。

 ◆海外の選手は、日本の選手とは違うプレースタイルを持ち、背丈も違ったりします。そうしたレベルにこの段階で触れられることは、彼らの意識をさらに上げることにつながると思います。

 ――この大会で車いす部門が実施されるのは3年目で、優勝者は健常者の選手と一緒に、海外派遣プログラムにも参加します。

 ◆車いすテニスの子たちにとっても、どこを目指せばいいのかがはっきりしてきたのではないかと思います。大会では、健常者のジュニアたちと交流することもできます。

 同世代の子たちがこれだけやっていると知ることで、車いすテニスの子たちのモチベーションも上がる。一緒にフロリダへ行き、生活を共にすることも刺激になると思います。

 ◇「自分からアクションを起こせる人間性を培ってほしい」

 ――海外派遣プログラムでは、錦織選手や国枝さんの指導を受けられます。実際に子どもたちを指導して、どのようなことを感じましたか。

 ◆僕自身も錦織選手と同じコートに入り、彼がコーチをしている姿を間近で見て、たくさんの刺激を受けました。

 「こんなふうに伝えるんだ」「こんなふうに技術を考えているんだ」ということを共有できるのは、僕にとってもですけど、ジュニアの子たちにとって大変価値のあることです。そういったアドバイスは、彼らの心に将来も残るのではないかと思います。

 僕は車いすテニスの子たちを中心に見ていますが、錦織選手がコートに来た時、「ドロップショットはどう打つのか」と、かなり具体的な技術について質問していました。僕もそのアドバイスを聞きながら、「なるほど」と思うことがたくさんありましたね。

 ――優勝者だけでなく、フェアプレー賞の選手も海外派遣プログラムに参加します。競技成績以外の部分を評価することについて、どう考えていますか。

 ◆フェアプレー賞に選ばれた子は、ガッツがあって、どんなポイントでも全力を尽くす姿がすごく印象的です。そういった選手がプログラムの中にいることで、みんなにいい影響を与えてくれるのではないかと思っています。

 ――海外派遣を通じ、テニスの技術以外に何を学んでほしいですか。

 ◆海外の文化に触れられるチャンスですし、錦織選手や僕が何を考え、どのようにキャリアを過ごしてきたのかにも触れられるチャンスだと思うので、どんどん質問してもらいたいですね。海外に行くことは、海外の生活にも慣れるということだと思います。物おじせず、どんどん自分からアクションを起こせるような、そういった人間性を培ってほしいと思います。

 ◇引退後も「テニスは楽しい」と思えることが誇り

 ――テニスを通じて、どのような力を育むことができますか。

 ◆テニスはいろいろなものを育めます。自立心も欠かせない要素です。

 練習コートやフライトの予約、宿泊先の手配、大会へのエントリーなど、身の回りのことを全部、自分でやらなければいけないのがテニスというスポーツだと思います。テニスで得た経験を、もしテニスをやめても、社会で生かしてほしいと思います。

 ――競技を続ける子もいれば、いつかテニスを離れる子もいます。子どもたちには、長い人生の中でテニスとどのように関わってほしいですか。

 ◆テニスを離れたとしても、30代、40代になって再開することはあり得ると思います。その時に、若い時にやっていたテニスがまだ好きで、得意なことであるのは、その子にとって価値のあることだと思います。

 テニスは生涯スポーツです。人生の最後まで楽しめると思うので、長い期間を通じてテニスに触れてほしいと思います。

 ――国枝さんは引退後、将棋やバスケットボールなど、好きなことを数えた時、最初にテニスが挙がったそうですね。

 ◆好きなことを10個まで数えるのは難しかったのですが、最初にテニスが挙がったことが、自分がテニスをやっていた意味ではないかと思いました。好きなことがたくさんあったり、好きなことが特に深かったりすると、人生は楽しくなると思います。

 テニスを始めた原点には、楽しかったからということがあったと思います。引退後も、「テニスは楽しい」と言える。そういったテニスキャリアを送れたことは、僕の誇りだと思っています。

 ――大会アンバサダー、ユニクログローバルブランドアンバサダー、FR財団理事として、スポーツを通じて社会にどのようなことを残していきたいですか。

 ◆スポーツの良さですよね。スポーツの良さは、楽しいこと、夢中になれることだと思います。「夢中になれることはありますか?」と聞いた時に、みんなが答えられるわけではありません。スポーツを通じ、夢中になれることを大切にし、人生の勝者になってほしいと思います。

毎日新聞

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