泥にのまれた港 戻る日常、それでも消えぬ記憶 熱海土石流5年
3日に発生から5年を迎えた熱海市の伊豆山土石流の被害は、大量の土砂が流れた逢初川沿いだけでなく、海にまで及んだ。「沖に出て一本釣りをしている時は、あの日のことを忘れることができる。でも港に帰るといやでも思い出す」。伊豆山港の漁師、松本早人さん(51)は港内を見渡しながらそう話す。
土石流は当時、海にも流れ込んだ。港では県によるしゅんせつ工事が続き、クレーンが動き、トラックが行き来してきた。あれから5年、本来の姿を取り戻しつつある。
松本さんはイセエビやアワビ、サザエ漁のほか、釣り客を案内する遊漁船も営んできた。災害後は1年ほど海に出ることができなかった。海藻が枯れる「磯焼け」に元々苦しんでいた漁場は、潜ると泥が巻き上がるようになり、一時は壊滅状態に。しかし、「今はきれいになった。イセエビの漁獲も以前の状況に戻ったし、藻場も以前より良くなった」。
◇ダイバー客回復
海を支えるのは漁業だけではない。一帯は首都圏から多くのダイバーや釣り客が訪ねる観光スポットでもある。2020年に拡大したコロナ禍と災害が重なり客足は遠のいたが、回復の兆しが見えてきた。
ダイビングショップを経営する飯塚広海さん(57)は23年10月、港にコンテナを活用したカフェを開業した。「伊豆山のにぎわいを取り戻す一助になれば」との思いからだ。
「コロナ以降どん底でした。でもダイバー客はずいぶん増えてきた」。現在、港を利用するダイバー客は災害前の7割程度に当たる年間約1000人だという。飯塚さんはさらに増えると期待を寄せる。
松本さんの悩みも、今は漁船の燃料代の高騰や災害前からのアワビ不漁など日々の課題へと移っている。「漁師として魚の資源を戻したい。いろんな知恵をいただきながら果たしたい」と前を向く。
県のしゅんせつ工事が今夏までに終了するのを前にクレーンのない港の景色が戻った。あの日の記憶を抱えながら、伊豆山港は少しずつ日常を取り戻している。
◇サイレンの下 犠牲者悼む
土石流が発生した午前10時28分、伊豆山地区で追悼のサイレンが鳴り響き、家族を亡くした遺族や近隣住民らは思い思いの場所で犠牲となった28人をしのんだ。
夫の徹さん(当時71歳)を亡くした小川慶子さん(75)は自宅跡に設けた祭壇に花を手向けた。一緒に手を合わせた近隣の住民は「流される家を見てなすすべがなかった」と振り返る。
今年3月に被災現場近くで再建された熱海市消防団第4分団の詰所前では分団員5人が黙とうをした。分団員たちは「今後も地域の人々の安全を守りたい」と決意を新たにしていた。市の追悼式が行われた伊豆山コミュニティ防災センターにも、式の後に住民らが訪れ犠牲者を悼んでいた。【若井耕司、長沢英次】
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