雪解けのきっかけは上皇ご夫妻 かつて緊張伴ったオランダ訪問
天皇によるオランダ訪問はかつて、緊張を伴うものだった。戦時下の抑留体験者らの強い反日感情があったためだ。
日本の皇室はオランダの王室と家族ぐるみの付き合いを続けてきたが、国賓として招かれたのは平成の半ばになってから。
雪解けが大きく進むきっかけは26年前、上皇ご夫妻による訪問だった。
第二次世界大戦下、日本軍はオランダ領東インド(現インドネシア)を占領した。軍人約4万人、女性や子供を含む民間人約9万人を強制収容所に抑留したとされる。過酷な重労働や暴力があり、多くの死者が出た。
1971年、昭和天皇が欧州歴訪の途中でオランダに立ち寄った。車列には魔法瓶が投げつけられた。沿道で日の丸が焼かれ、「ヒロヒト帰れ」のプラカードが掲げられた。
89年の昭和天皇の葬儀には、各国の国王や王族が参列する中で、オランダ国王は自国の国民感情に配慮。出席を見送った。
平成になり、上皇ご夫妻(当時は天皇、皇后両陛下)が2000年に国賓として訪問するまでにも、王族や皇族、政府要人の往来はあった。
政治や経済、文化の面で友好的な関係になっていたが、戦争の歴史を背負う天皇の訪問は特別な意味を持って受け止められていた。
00年5月23日、アムステルダムの王宮前のダム広場にある戦没者の慰霊碑で、上皇ご夫妻は花を供え、深い黙とうをささげた。
静寂の中、王宮前から慰霊碑までの歩みをエスコートしたのはベアトリックス女王(当時)。両陛下の脇を固めたのは、インドネシアで過酷な捕虜経験のある著名な退役将校だった。
当時、オランダ大使だった池田維(ただし)さん(87)は「戦争被害者たちの対日意識を変えたいという女王陛下の特別な配慮を感じた」と振り返る。
上皇さまはその後の宮中晩さん会で「戦争の傷を負い続けている人々のあることに、深い心の痛みを覚えます」とあいさつした。
この言葉や、街を歩く途次に出会った大学生と気さくに話す両陛下の姿などが現地で報道され、反日感情の雪解けが進んだという。
宮内庁幹部の一人は「オランダ王室には恩がある」と語る。「あの時、両国関係は新しいステージになった。それは王室の温かい支えや皇室への理解があってこそだった」
皇室と王室は両国間の関係改善に努めつつ、よき友人、よき理解者としての信頼を育んできた。
女王の息子、ウィレムアレクサンダー国王と天皇陛下はともに皇太子だった時代から、治水や衛生問題など「水」を巡るさまざまな課題に関心を寄せ、日本国内や国際会議でたびたび行動を共にしている。
天皇ご一家(当時は皇太子ご一家)は06年、オランダで2週間、静養の時間を過ごした。皇后雅子さまの適応障害が公表されてから約2年がたった頃。王室の招待を受けたご一家は、自然の中にあるヘット・ロー宮殿でゆったりとした時間を過ごした。
その7年後、両陛下はウィレムアレクサンダー国王の即位式に出席するため、再びオランダへ。雅子さまは療養生活に入ってから公的な海外訪問が途絶えており、この即位式出席が11年ぶりの海外公務だった。
当時、王室側から「すべての行事に出席しなくてもかまわない」と雅子さまの体調を気遣う提案があったという。不安を抱えていた雅子さまが一歩を踏み出す大きな後押しとなった。
14年10月、ウィレムアレクサンダー国王夫妻が国賓として来日した。国王は宮中晩さん会のスピーチで、歴史に触れた。「戦争の傷痕は今なお、多くの人々の人生に影を落としている」
そして続けた。「和解の土台となるのは、互いに背負ってきた苦痛を認識すること。両国民の多くが和解の実現に向け全力を尽くし、双方の間に新しい信頼関係が生まれた」。両国がさらにポジティブな関係となっていくことを感じさせた。
この晩さん会には雅子さまも出席。晩さん会自体への出席は11年ぶりだった。体調を整えながら少しずつ公務を再開させていった雅子さま。その道のりにはオランダ王室がいつも深く関わってきた。
こうした歩みを踏まえ、天皇陛下は11日の記者会見で王室への感謝を述べ、「平和の尊さを心に刻みながら、交流を大切にしていきたい」と話した。【山田奈緒】
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