<皇室スケッチ>皇居に桂離宮、鴨場も…皇室ゆかりの場で進む新たな取り組みとは?
皇居、御所、御料牧場、鴨場など、皇室ニュースによく登場する場所は誰のものなのか。
英国王室は所有する多くの不動産から賃料収入などを得て独自の財源としているが、現代の皇室は仕組みが違う。
新たな取り組みも進む皇室ゆかりの地の今を探った。
◇御用邸や陵墓など各地に
2025年10月、雨上がりの桂離宮(京都市)を天皇、皇后両陛下が訪問された。
桂離宮は江戸時代初期に後陽成天皇の弟・八条宮智仁親王が整備した別荘が始まりで、庭は日本庭園として最高傑作とされる。
陛下は45年ぶり3回目、雅子さまは初めて足を運び、茶室「松琴亭」の前で庭園を眺めた。
案内役の森本幸裕・京都大学名誉教授は浸水リスクを避ける高床式の建物の仕組みなどを紹介。両陛下は「素晴らしい伝統があるんですね」と感心していたという。
桂離宮は「皇室用財産」と呼ばれる。
明治憲法下では広大な土地や建物、森林などは皇室の財産だったが、戦後の日本国憲法で一部を除き、国有(皇室用財産)になり、宮内庁が維持・管理している。
他にも、上皇ご夫妻や秋篠宮ご一家ら皇族方の住まいのある赤坂御用地の土地建物▽静養に使われる御用邸(栃木、静岡、神奈川)▽伝統的なカモ猟で外国要人らをもてなす鴨場(埼玉、千葉)▽晩さん会や園遊会などで使う農産物を育てる御料牧場(栃木)▽歴代天皇や皇族を埋葬したとされる陵墓――などがある。
立ち入りが制限されていた場所が、一般公開された例もある。
那須御用邸用地の半分近くを環境省に移管して11年に開園した日光国立公園「那須平成の森」はその一つ。08年に天皇即位20年目を迎えた上皇さまの「豊かで多様な自然環境を維持しつつ、国民が自然に直接ふれあえる場として活用してはどうか」との意向を踏まえたもので、新緑の季節から雪に覆われる冬まで1年を通じて散策を楽しめる。
◇国内、海外双方から人気
皇室ゆかりの空間を公開する動きは、政府が10年前に取りまとめた観光ビジョンを背景に加速している。
観光を成長産業に掲げ、30年に訪日外国人数6000万人(25年は4268万人)を目指すという内容で、官民を挙げて「国の歴史や文化に溢(あふ)れる公的施設を大胆に、一般向けに公開・開放し、観光の呼び水とする」とうたう。
皇室用財産もビジョンの影響を受けている。桂離宮は以前から一般公開されているが、事前申込制のうえ日程も限られていた。16年からは1日6回(定員計210人)の参観ツアーの当日受け付けや土日の公開に踏み切った。現在はツアーを24回(同480人)に拡大し、うち5回は英語ガイドによる外国人専用回だ。
京都市には江戸時代に後水尾天皇が造営した山荘「修学院離宮」もある。1986年に来日した英国のチャールズ皇太子とダイアナ妃を、天皇陛下が案内した。新緑の園内で3人はお待合所に腰掛けて景観を眺めた。修学院離宮も16年から参観を段階的に増やしてきた。
宮内庁は、皇居・東御苑(東京都千代田区)や京都御所(京都市)などでも音声ガイドの多言語化や土日の一般公開を進める。
コロナ禍で落ち込んだ来訪者は、訪日外国人客(インバウンド)需要の高まりで急回復し、東御苑の昨年の来園者は過去最多を記録した19年以来の200万人超え。京都御所も年間70万人以上が訪れている。
鴨場と御料牧場も直近の見学会の抽選倍率は、それぞれ13倍と26倍で、宮内庁関係者は「国内客とインバウンドそれぞれから需要がある」と分析する。
68年から公開され、都会のオアシスとして人気の東御苑では新しい動きも出ている。
皇室ゆかりの美術品などを収蔵、展示する「三の丸尚蔵館」は、管理と運営を23年に独立行政法人国立文化財機構に移した。収蔵品をより多くの人が触れられるようにし、調査研究にも力を入れる狙いだ。
現在、令和の大改修のまっただ中で、建て替え後は手狭な収蔵庫や展示室が拡張する。26年に全面開館を控え、すぐそばには床面積約3000平方メートルの「大手休憩所」(仮称)も建設中だ。皇居初のカフェを併設した巨大な施設になる。皇室や皇居の歴史を国内外に発信する役割まで担う。
◇維持管理には苦労も
国民に開かれた場所も、プライベートな空間も、伝統を損なわずに皇室用財産を維持管理するには高度な技法と大きな労力が必要だ。
例えば、桂離宮に「わび」「さび」をもたらす「苔(こけ)庭」も手間がかかる。コケの種類によっては、日照を好む一方で乾燥を嫌ったり、湿地を好んだり多様で繊細な生育環境が必要になる。近年の気温上昇で環境整備は難しくなっている。
京都御所の紫宸殿(ししんでん)の屋根は「檜皮(ひわだ)葺(ぶき)」というヒノキの樹皮を使った日本古来の格式高い伝統技法を用いている。来年度から9カ年のふき替え工事などを控えているが、職人や資材の安定確保も課題の一つという。
黒田武一郎宮内庁長官は昨年末の就任記者会見で皇室の課題を問われ、「私の個人的な問題意識のレベル」としながらも「皇室財産の中長期的な適切な管理は非常に重要」と指摘した。
総務省官僚時代に全国の老朽化インフラの維持管理や更新計画に携わった経験を振り返りながら、皇室用財産を未来につなぐ方法を考えていく姿勢を示した。
【柿崎誠】
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