「有名すぎる」 二つの世界遺産擁する広島、県担当者が語る課題

2025/11/03 07:15 

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 6474万人――。2024年に広島県を訪問した観光客数だ。県観光連盟によると、そのうち外国人観光客は過去最多の422万人を記録した。原爆ドーム(広島市中区)と厳島神社(廿日市市)の二つの世界遺産を擁する広島。平和都市として世界的知名度があり、観光資源に恵まれているように見える。

 ただ、県観光課の担当者は「訪れた人たちに、本当に広島を楽しんでもらえているだろうかという問題意識がある」と話す。この担当者によると、二つの世界遺産が有名すぎるため、観光客がこの二カ所に集中し、県内の他の場所にまであまり足を運ばないという課題があるという。

 確かに県観光連盟の調査では、24年に市町別観光客数が最も多かったのは広島市の1541万人で、次は廿日市市の831万人。尾道市667万人、福山市556万人と続いていた。

 10月下旬の週末、修学旅行中の学生と観光客でにぎわう原爆ドーム前で、訪れた人々に声を掛けた。大阪府茨木市から妻と訪れた鈴木康博さん(64)は広島に1泊し、原爆資料館を見学後に帰阪する。「広島は観光地というより、平和を勉強する場所」と話した。

 高校の同級生7人組で訪れた名古屋市の女性(78)は、広島を訪ねたのは高校の修学旅行以来、60年ぶりという。「原爆ドーム、原爆資料館、宮島、厳島神社……。それ以外でぱっと思いつく広島の場所はないですね」

 冒頭の県観光課担当者は「二つの世界遺産を巡って広島観光を終わりにするのではなく、何度でもリピートしてもらうようにしないといけない」と強調する。

 観光客を他の場所にも分散させるための取り組みはいくつかある。県は、地元の人との触れ合いからリピーターにつなげようと、2000年代から続く農家や漁師の家庭への民泊を取り入れた「体験型修学旅行」のPRを強化している。また広島市中心部の県民文化センターで4月~12月の水曜夜に開いている県内団体による伝統芸能の「夜神楽」のPRにも力を入れている。

 県は観光を施策の柱の一つと位置付け、12年の自虐的PR「おしい!広島」など、広告代理店や映像作家と組んだ積極的なキャンペーンを展開してきた。

 観光客数は13年に初めて6000万人を突破し、17年まで6年連続で過去最高を更新した。西日本豪雨や新型コロナウイルス禍などで一時は落ち込んだが、2023年のG7広島サミットを経て、現在はコロナ前と同水準まで回復している。

 県の目標は、30年に観光客数1億人。だが日本人観光客は伸び悩み、インバウンドも国際情勢次第で不透明だ。模索は続いている。【川原聖史】

毎日新聞

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