兵庫県宝塚市内の自宅でクロスボウ（洋弓銃）を発射し、家族ら４人を殺傷したとして、殺人と殺人未遂の罪に問われた無職、野津英滉（ひであき）被告（２８）に対し、検察側は１５日、神戸地裁（松田道別裁判長）で開かれた裁判員裁判で死刑を求刑した。「結果の重大性は言葉では言い表しがたいほど重い。殺害手段も残虐極まる態様だ」と述べた。弁護側は心神耗弱だったとして懲役２５年が相当と訴え、結審した。判決は３１日。

　野津被告は２０２０年６月、ボーガンとも呼ばれるクロスボウで祖母（当時７５歳）、弟（当時２２歳）、母（当時４７歳）を殺害し、伯母（５５）にも重傷を負わせたとされ、公判では刑事責任能力が争点となった。

　検察側は、被告が幼少期から母の愛情を感じられないと不満を抱き、不満を募らせて不安定になって、４人を殺害し死刑判決を受けて死のうと考えたと指摘。動機の形成過程に幻覚・幻聴の影響はなく、自然で理解可能だとした。

　その上で、殺傷能力の高いクロスボウを選び、相手に気付かれないよう行動していたといった事情を挙げ、「被告には自己を制御する能力が備わっており、完全責任能力があった」と主張。「罪を償う方法を見いだしがたいほど刑事責任は重い。動機は極めて自己中心的で、人命軽視の程度も大きい」と非難した。

　これに対し、弁護側は、当時の被告は強迫性障害の症状が悪化していたと反論した。「家族全員を殺害して死刑になる」という動機の形成には、自閉スペクトラム症の特性でもある極端な思考形式が強く働いたと言及。「善悪を区別する能力がなかったとは言えないが、精神的障害の著しい影響があった」と述べて死刑回避を求めた。【木山友里亜】