ノーベル化学賞に北川進さん 評価された「多孔性金属錯体」とは

2025/10/08 21:28 

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 スウェーデン王立科学アカデミーは8日、2025年のノーベル化学賞を、京都大高等研究院の北川進特別教授(74)ら3氏に授与すると発表した。北川氏は金属化合物の内部に多数のナノサイズの空間を持ち、気体の出し入れを制御できる多孔性材料の「金属有機構造体(MOF)」を開発。二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガスや有毒ガスを効率的に回収・貯蔵する技術として期待されている。

 他に受賞が決まったのは、リチャード・ロブソン豪メルボルン大教授(88)と、オマー・ヤギー米カリフォルニア大バークリー校教授(60)。アカデミーは「この技術はCO2をとらえたり、砂漠の空気から水を採取したりするなど、人類が抱える最大の課題の解決に貢献する可能性がある」と評価した。

 MOFは金属イオンが有機物の鎖で結合した化合物で、ジャングルジムのような格子状の構造をしている。1989年にロブソン氏が構想を発表したが、当時は格子の間が溶液の分子で満たされた状態では形を維持できるものの、溶液を抜くと崩れてしまった。

 88年に研究を始めた北川氏は、金属のコバルトと有機物を組み合わせ、溶液を抜いても壊れないタイプを開発。さらに内部の気体分子を自由に出し入れすることにも成功した。

 このMOFは0・4~2ナノメートル(ナノは10億分の1)ほどの空間が多数ある。圧力を加えて空間の中にメタンなどの気体分子を取り込ませたり、圧力を下げて取り出したりして、出し入れを制御する。多孔性金属錯体とも呼ばれる。

 金属や有機物の種類を変えることで、取り込む気体の種類も選ぶことができる。97年に独化学誌で研究成果を発表した。ヤギー氏は99年、非常に安定した分子構造で高温でも崩壊しないMOFを発表。さまざまな材料や特性を示して世界を席巻した。

 こうした研究成果は、燃料となるメタンや水素を小さな容積で貯蔵するタンクへの応用が期待されている。また果物の腐敗を防いだり、危険なガスを安全に運んだりする技術として、海外ですでに実用化されている。

 日本からのノーベル賞受賞(米国籍を含む)は、6日に生理学・医学賞の受賞が決まった坂口志文・大阪大特任教授に続き個人では30人目。化学賞では9人目となる。受賞者には、賞金1100万スウェーデンクローナ(約1億7000万円)が3分の1ずつ贈られる。授賞式は12月10日、ストックホルムで開かれる。【三股智子、田中韻】

 ◇金属有機構造体

 金属イオンと有機物がジャングルジムのように組み上がった高分子化合物。「Metal―Organic Framework」の頭文字から「MOF」と略される。内部にナノサイズ(ナノは10億分の1)の無数の穴がある。北川進氏はこの穴にメタンや酸素などさまざまな気体分子を出し入れしても壊れない材料を開発し、多孔性配位高分子と名付けた。

 ◇北川進(きたがわ・すすむ)

 1951年、京都市生まれ。74年京都大工学部卒。79年に京大大学院博士課程修了。近畿大理工学部助教授、東京都立大教授などを経て、98年京大大学院工学研究科教授。2013年に京大物質―細胞統合システム拠点長を兼任。17年京大名誉教授。現在は京大理事・副学長、総合研究推進本部長、高等研究院特別教授を務める。

 08年フンボルト賞、09年日本化学会賞、10年トムソン・ロイター引用栄誉賞、13年江崎玲於奈賞、16年日本学士院賞、17年ソルベイ未来化学賞。11年には紫綬褒章を受章した。

毎日新聞

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