沖縄戦「伝え続けていく」 慰霊の日追悼式、継承への決意新たに

2025/06/23 13:21 

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 沖縄は23日、第二次世界大戦末期の沖縄戦の犠牲者らを悼む「慰霊の日」を迎えた。最後の激戦地となった沖縄県糸満市摩文仁(まぶに)の平和祈念公園で沖縄全戦没者追悼式が営まれた。日米両軍の激しい戦闘で住民を含む約20万人が命を落とした地上戦から80年。世界では紛争や戦争が各地で起き、市民の犠牲が絶えない。玉城デニー知事は平和宣言で「沖縄戦の実相と教訓を世代を超えて伝え続けていくことは、いまを生きる私たちの使命ではないか」と呼びかけ、体験を継承する決意を示した。

 沖縄戦の体験者は年々減少し、高齢化とともに証言も困難になっている。住民基本台帳に基づく2024年1月1日現在の人口で、沖縄県約146万人のうち80歳以上は約11万人。沖縄戦当時、学徒動員の対象だった世代を含む95歳以上は約7000人となり、体験は「記憶」から「記録」へと移りつつある。

 5月には自民党の西田昌司参院議員が、動員されて亡くなった学徒らを慰霊する「ひめゆりの塔」(糸満市)の展示内容について、「歴史の書き換え」と批判した発言が波紋を広げた。

 玉城知事は平和宣言で「沖縄戦の実相と教訓は、戦争体験者が心の傷を抱えながら、後世に伝えようと残した証言と、研究者のたゆまない努力によって受け継がれてきた」と強調。沖縄戦の歴史的事実や平和の構築につながる研究を進める「国際平和研究機構」を創設するとともに、各地に残る戦争遺跡群を保存・整備して世界遺産登録を目指すことなどを宣言した。

 沖縄には現在も全国の米軍専用施設面積の7割が集中する。この1年は米兵による性的暴行事件が相次いで発覚したほか、25年の県内での米軍関係者による刑法犯の検挙件数は、過去20年で最多だった前年を超える水準で推移する。

 軍事訓練は安全保障環境の悪化を背景に活発に実施され、米軍機の騒音被害も深刻な状況が続く。玉城知事は米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古移設計画にも触れ、「本土復帰から53年を経た今日でも過重な基地負担が続く」と訴えた。

 追悼式には石破茂首相も参列した。あいさつで、県民の4人に1人が沖縄戦で亡くなったとされることに触れて「民間人が戦に巻き込まれることがあってはならない」とし、「沖縄が負われた深い傷に思いを致し、平和で豊かな沖縄の実現に向けて力を尽くすことは国家の重要な責務だ」と述べた。沖縄の基地負担軽減については「目に見える形で実現する」と決意を示した。

 沖縄県内では政府が中国を念頭に、自衛隊の増強も進める。玉城知事は24年の平和宣言で「地域の緊張を高めている」と懸念を示したが、今回は言及しなかった。

 一方、県の招待を受けて初めて参列した国連の中満泉事務次長(軍縮担当上級代表)はあいさつで「真の安全保障と平和は、軍拡競争によって達成されるものではない」と強調。「適切な防衛力と外交努力、軍縮のツールを組み合わせて初めて達成される」と指摘した。

 追悼式は県と県議会が主催。24年のノーベル平和賞を受賞した日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)の田中重光代表委員も招待を受けて参列した。

 沖縄戦などの犠牲者の名を刻む平和祈念公園の「平和の礎(いしじ)」には、新たに342人の名前が刻まれた。刻銘者は24万2567人となった。【比嘉洋】

毎日新聞

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