SF作家・小松左京のメモ見つかる 万博のあり方考察 調和を重視

2025/06/06 10:00 

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 1970年大阪万博の理念作成に深く関わったSF作家の小松左京(31~2011年)が、万博のあり方についての考察を記したメモ3枚が見つかった。万博のテーマ「人類の進歩と調和」に関連し、「進歩」のみに偏らず「調和」を重視していたことが分かる内容。専門家は「小松の具体的な思考を読み取れる貴重な資料だ」としている。

 小松は64年7月、文化人類学者の梅棹忠夫らと自主研究会「万国博を考える会」を結成。会は万博の理念や意義を自発的に検討し、ここで生まれたアイデアがテーマにも反映された。

 今回見つかったメモは、400字詰め原稿用紙3枚。2枚にはテーマを万博にどう生かすかの考察、もう1枚には万博閉幕後の構想がつづられていた。いずれも作成時期は不明だが、「太陽の塔」に関する記述があることから、芸術家の岡本太郎がテーマ展示プロデューサーに就任した67年以降のものとみられるという。

 テーマに関するメモには、「『科学技術時代』における人類の課題」の項目として「『進歩』軸点によって、あらゆるものがリードされて行くのか」「『調和的進歩』のために、ある程度規制をすべきなのか」と記載。万博でうたう「進歩」の意味を深く考察する様子がうかがえる。一方、閉幕後についてのメモでは「万国博のあと利用」の項目に「あと地」「あと情報―ノウハウ、システム」「あと人間」などと記し、単に土地や施設だけではなくノウハウや人材も含めた経験の活用を構想している。

 メモは「小松左京ライブラリ」(神戸市)代表で次男の実盛さん(61)が5月上旬、70年万博をテーマにした展覧会への出品準備中に見つけた。実盛さんは「万博開幕が近づく中でもなおテーマに葛藤する気持ちを抱えていたことや、一時的なイベントに終わらせたくないという強い思いを感じた」と語る。大阪万博の歴史に詳しい五月女(さおとめ)賢司・大阪国際大准教授は「思考のプロセスが具体的に書き込まれている点に価値がある。科学技術の発展の負の側面をも考慮した『調和』は、現代のSDGs(持続可能な開発目標)に通じる概念で、25年大阪・関西万博が開催されている今、光を当てることに意義がある」と指摘する。

 メモは23日から大阪府河南町の大阪芸術大で開かれる「大阪芸術大学所蔵品展 Around EXPO’70」で公開される。【石川将来】

毎日新聞

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