野良猫を「遺棄」か「移動」か 住民トラブル巡り松山市が対応苦慮

2025/05/22 12:15 

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 「遺棄」か、移動か――。松山市が野良猫を巡る住民トラブルの対応に苦慮している。

 同市の自宅敷地内で野良猫の糞尿(ふんにょう)被害に遭った男性が、捕獲した猫を地区外に運んだところ、その行為が動物愛護法で禁止されている「遺棄」に当たるとして、猫を世話する動物愛護団体のメンバーらが市や愛媛県警に通報。市は遺棄と判断して男性に注意した一方、県警は「違法性はない」との立場を示した。

 市の担当者は「遺棄を防ぎたいが、市には(行為をやめさせる)強制力がない。地区ごとにルールを決め、野良猫を適切に見守ってもらえるよう周知を徹底するしかない」と話す。

 トラブルがあったのは、同市郊外の東野地区の住宅街。市内の愛護団体から4月8日、「男性が自宅の敷地内に猫を捕獲するオリを設置し、捕まえた猫を地区外に運んでいる」と市に通報があった。

 市保健所生活衛生課の職員が現場に駆けつけると、愛媛県警松山東署員が男性に事情を聴いており、市は環境省からの通達などに基づき、遺棄行為を止めるよう男性に口頭で注意した。しかし、その後も団体から「オリを撤去していない」と何度も市に連絡があったため、市は複数回、同署に対応を求めたという。

 オリを設置した40代の男性は毎日新聞の取材に応じ、2023年に自宅を新築した後、敷地内で野良猫が頻繁に糞尿をするようになったと説明した。

 男性によると、隣に住む70代の女性が野良猫にえさを与えており、しばらくは黙認して自宅敷地内のふんを始末していたが、猫がどんどん増えたため、女性に「屋内で飼ってほしい」「えさを与えないで」などと直訴。しかし、状況に変化がなかったため、やむなく自ら捕獲して地区外へ運ぶことにしたという。男性は「対処してくれなかったので(繁殖時期前に)やむを得ずにやった」と話す。

 一方、隣に住む女性によると、野良猫へのえさやりは19年ごろに始めた。えさは自宅内で与え、トイレも自宅敷地内の屋内外に数カ所設置。約1年前、えさを求めに来る猫が20匹ほどに増えたため、保護団体に支援を求め、不妊去勢手術を施してもらったり、子猫は保護してもらうなどしたが、その後も数匹の猫を世話していた。女性は「近所に迷惑をかけないようにしていたつもり。可哀そうな猫を無視できなかった」と説明する。

 動物愛護法は動物の遺棄を禁止しており、違反すると「1年以下の懲役か100万円以下の罰金」が課せられる。

 具体的には、えさや水を得ることが難しく、交通事故に遭ったり野生生物に捕食されたりする恐れがある場所などに移転または置き去りにし、離隔することを禁じており、該当する場所に放置した場合、逮捕される可能性がある。6月の法改正で「懲役」から「拘禁刑」に変わる。

 男性は「弁護士とも相談し、水が飲めて交通事故に遭わない場所を選んだ。遺棄ではなく移動だ」と主張する。松山東署は取材に対し、違法性の有無について明確に示さなかったが、男性によると「おとがめはなかった」という。同署は「細かい捜査内容は答えられない。法解釈を検討し、必要な対応をしている」とコメントした。

 動物保護を巡るトラブルなどに詳しいNPO法人「どうぶつ弁護団」理事長の細川敦史弁護士(兵庫県弁護士会)は「法律では野良猫でも(移動させると)遺棄罪に該当する可能性が示唆されている。だが、『猫を右から左に移動させているだけ』という誤解から、警察もこの種の事例に積極的には動かないのでは」と指摘する。

 市は、地区全体で野良猫を見守る「地域猫活動」などの啓発チラシに遺棄行為を禁止する文言を追加。今後もみだりな遺棄行為を行わず、責任を持ってえさをやることなどを注意喚起していく方針だ。【広瀬晃子】

毎日新聞

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