南海トラフ地震の死者29.8万人 新たな被害想定公表 国の有識者会議

2025/03/31 11:07 

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 東海沖から九州沖を震源域とする「南海トラフ巨大地震」について、国の有識者会議は31日、最悪の場合は直接死が29万8000人、全壊・焼失建物が235万棟に上るとする新たな被害想定を公表した。2012年の前回想定では、それぞれ32万3000人、238万6000棟とされていた。政府は23年度末までに死者を8割、全壊・焼失建物を5割減少させる目標を立てていたが、いずれも1割にも満たない減少にとどまり、遠く及んでいない。

 経済被害は、間接的な影響も含めると292兆円に及ぶ。物価の高騰も反映して前回想定(13年)より72兆円増え、国家予算の2・5倍に達する。

 被害想定の報告書を受け取った坂井学防災担当相は「(被害は)広域かつ甚大だと改めて確認された。真摯(しんし)に受け止め、やるべきことをやっていきたい」と述べた。目標に向けた基本計画の見直しを始め、今夏ごろをめどに改定する方針。

 有識者会議は「従来の行政主体による対策だけでは限界がある」として、国民一人一人が住宅の耐震化や迅速な避難行動に取り組むよう呼び掛けた。

 国は最新の知見や防災対策に基づいて被害想定を改定するため、有識者で作るワーキンググループなど二つの会議で23年から議論を進めてきた。

 今回の改定では、地形や地盤のデータが高精度化し、被害を受ける地域がより広範囲に及ぶことが判明。福島県から沖縄県に及ぶ深さ30センチ以上の浸水域は前回より3割増え、1152平方キロとなった。震度分布も修正され、静岡県から宮崎県までの主に沿岸部の最大149市町村で震度7を観測するとした。

 被害の想定では、南海トラフ沿いでマグニチュード(M)9級の地震が発生したと仮定。揺れや津波のパターンを組み合わせ、季節や時間帯、気象条件のケースごとに被害を推計した。

 死者数が最悪となるのは前回と同様、風が強い冬の深夜に、駿河湾から紀伊半島沖の断層が大きく動き、東海地方の被害が甚大なケース。21万5000人が津波、7万3000人が建物倒壊、8700人が火災で死亡する可能性がある。前回より微減したが、東日本大震災の直接死(1万5900人)の18倍を超える。

 都道府県別の死者数では、静岡県の10万1000人が最多。負傷者は全国で63万6000人に上る。

 また、被災による疲労や病気で亡くなる災害関連死についても、初めて想定を公表。東日本大震災や能登半島地震のデータを基に、最大で5万2000人と推計した。

 事務局の内閣府は、死者数や全壊・焼失建物数が微減にとどまった要因について「前回とは震度分布や地形のデータが違うため単純比較はできない」と前置きした上で、「耐震化や津波避難タワーの整備などハード対策が進んだ一方で、浸水域の増加などの変更で想定を押し上げた部分がある」とした。

 また、過去には想定震源域の東側や西側で、時間差を置いて巨大地震が別々に起きた「半割れ」と呼ばれるケースもあった。今回は初めて、半割れの場合の被害も推計。最初の地震の後に安全な場所に避難するなどすれば、被害を大幅に減らせるという。

 一方、建物やライフラインの損壊など直接的な経済被害は224兆円、生産性の低下や交通インフラの寸断による間接的な影響は67兆円に上る。津波の浸水地域の増加に加え、建築資材の高騰など物価高が大きく影響し、合計金額は前回想定より72兆円増えた。

 報告書は、個人でも取り組める対策により、被害が大幅に軽減することも強調した。耐震化率を現状の90%から100%にすることで建物倒壊による死者は8割減少。全員が発災後すぐ避難した場合、津波による死者も7割減るとした。【木原真希】

 ◇南海トラフ巨大地震

 静岡県沖の駿河湾から宮崎県沖の日向灘まで延びる溝状の海底地形(トラフ)で起きる恐れがある大地震。政府の地震調査委員会は、30年以内の発生確率を80%程度としている。2024年8月には日向灘でマグニチュード7・1の地震が起き、気象庁は初めて、南海トラフ地震への注意を呼びかける「臨時情報(巨大地震注意)」を出した。

毎日新聞

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