歴史を覆う香港の「中国化」 博物館で天安門事件資料を撤去
香港に押し寄せる「中国化」の荒波によって、市民が語り継いできた歴史や記憶が危機にさらされている。政府が運営する「香港歴史博物館」は今年4月、常設展を刷新し、中国共産党がタブー視する1989年の天安門事件に関する資料がほぼ撤去された。
九竜半島にある香港歴史博物館は、2020年に中国主導で香港国家安全維持法(国安法)が施行された後、常設展を閉鎖して改修を進めていた。
◇天安門事件 大幅な変更
今回、6年ぶりにオープンした常設展で最も注目を集めたのは、民主化を求める学生らを中国政府が武力で弾圧した天安門事件を巡る大幅な変更だ。現地メディアによると、以前の展示では、学生を支持する香港市民による当時のデモ行進の様子などが映像と共に紹介されていたが、こうした資料は消えてしまった。刷新後は、中国政府の公式見解である「89年の政治的風波(騒動)」という短い言及があるだけだった。
近代史の展示も大きく変わり、イギリスによる植民統治の始まりを「(香港島の)強制的占領」と記述し、以前の「割譲」という表現から変更した。戦前の英国統治下で「大部分の華人(中国系住民)が人種差別を受けた」と解説するなど負の側面を強調する内容になった。
◇「抗日戦争」展示は拡充
さらに、「抗日戦争」に関する展示が大幅に拡充された。旧日本軍が戦時中の香港占領期に「略奪を行い、市民を虐殺した」との記述があり、当時の占領政策を「庶民を高圧的に統治し、エリート層を懐柔することで侵略統治を固めようとした」などと批判した。
常設展の全体を通じ、中国への帰属意識を高めることが重視されていた。「祖国と共に」と題された結びのコーナーでは、国安法施行で「愛国者による香港統治」が実現したと主張し、大画面に「祖国を後ろ盾に香港はより良い明日にまい進する」という言葉が映し出された。
この博物館は2年前から中国の香港政策を礼賛する「国家安全展示ホール」を併設し、「愛国主義教育」の拠点として青少年の校外学習の場となっている。
◇香港市民からは懸念の声も
香港では、民主派が運営する独立系書店も相次いで摘発されており、市民からは、中国共産党の意に沿わない歴史認識や価値観が封殺される現状を懸念する声が聞かれた。かつて天安門事件の追悼活動に参加していたという高齢の男性は「歴史が消し去られてしまわないよう、私たちは自らの経験を記録し、語り継がねばならない」と語った。【香港で河津啓介】
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