民間人死者数、近年で突出の8割超か ガザ侵攻2年 秩序なき戦場

2025/10/05 16:00 

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 2年間に及ぶパレスチナ自治区ガザ地区の戦闘では、国際人道法違反の疑いが濃厚な事例が相次いでいる。ガザはどれだけ破壊されたのか。公表されたデータを基に探ると、国際法が軽視されている現状が浮かび上がった。

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 イスラエル軍のハレビ参謀総長(当時)は1月21日、約2万人の戦闘員を殺害したと主張した。ガザの死者数はこの時点では約4万7000人で、民間人の割合は57%となる計算だ。しかし、死者の6割強は女性と子供であり、仮に成人男性が全員戦闘員だったとしても、イスラエル軍の主張する戦闘員の死者数には約3000人足りない。

 イスラエル軍は毎日新聞の取材に対し、「ガザの保健当局は自然死など紛争と無関係の死者も記録している」と主張。ネタニヤフ首相も9月の国連総会の演説で、死者に占める戦闘員と民間人の比率は「1対2以下」だと述べたが、いずれも根拠は示していない。ガザ当局の数字は国連機関などからほぼ正確だと指摘されている。

 一方、英紙ガーディアンなどは8月下旬、イスラエル軍の機密リストをもとに、死者の83%が民間人だったと報じた。このリストにはイスラム組織ハマスなどの戦闘員4万7653人の名前が記され、5月中旬時点で「死亡」もしくは「おそらく死亡」とされていたのは8900人にすぎなかった。当時のガザ側の死者に占める戦闘員の割合は17%にとどまる。

 事実であれば、イスラエル軍による攻撃は近年の「対テロ戦争」と比べても、民間人が犠牲となる割合が突出していることになる。

 米ブラウン大の「戦争のコスト」プロジェクトによると、アフガニスタン戦争(2001~21年)では、米兵や武装勢力も含め約17万6000人が死亡したが、このうち民間人は約4万6000人(約26%)だった。03年3月に始まったイラク戦争では、21年8月までに死亡した推計27万5000~30万6000人のうち、民間人は約68%を占める。ただし、アフガンやイラクの民間人死者には、武装勢力によるテロの犠牲者も含まれる。一方、ガザの死者は大半がイスラエル軍による攻撃によるものとみられる。

 国際人道法では、戦闘員と民間人を区別し、民間人の生命や財産を保護する義務がある。これを「区別の原則」と呼ぶ。イスラエル軍は、攻撃の事前警告などを通じて「民間人の被害軽減に全力を尽くしている」と主張するが、ガザの戦闘開始後は、地位の低い戦闘員1人を殺害するために15~20人の民間人の犠牲を容認するようになったとの報道もある。

 「巻き添えで亡くなるガザの人に対して、無頓着すぎた」

 イスラエル軍の元予備役の男性(29)は取材にこう明かした。23年10月のハマスによる越境攻撃では、ガザの一部住民もイスラエル側になだれ込んだ。このため「ガザに罪のない人はいない」と考える兵士も少なくないという。こうした認識が民間人の被害拡大に影響した可能性もある。【カイロ金子淳、エルサレム松岡大地】

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