イスラエルとパレスチナの砂を使い…外交官が表現したいものとは

2025/06/29 17:18 

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

 イスラエルと、パレスチナ自治区ガザ地区のイスラム組織ハマスが交戦する中、平和への祈りを込めて抽象画を制作する外交官がいる。

 服部高士さん(55)だ。

 パレスチナとイスラエル双方の砂を使った作品は両地域で称賛され、東京やニューヨークでも展示された。服部さんが表現しようとしているものは何か。

 キャンバスに砂を接着し、その上に「迷路」を描く。進んでいくと、大きな黒い空洞に突き当たる――。作品のタイトルは「ラビリンス(迷宮)」。

 モチーフは、ギリシャ神話に登場するミノタウロス(牛の頭と人の体を持つ怪物)が閉じ込められた迷宮だ。

 「迷路は、人が作り出した『問題』の象徴。そして道を進むと、必ず憎悪(ミノタウロス)に行き着く。憎悪という怪物にとらわれたイスラエルとパレスチナを表現しました」

 砂のざらついた質感により、迷路は風化しているようにも見える。「人間が作った問題が、やがて消えていくことへの期待」を示しているという。

 2019~23年、中東地域を専門とする服部さんは、対パレスチナ日本政府代表事務所に参事官として勤務した。もともと絵を描くのが趣味だったが、パレスチナの不均質で荒々しい砂に触れ、抽象画に取り入れようと思い立った。

 「ネットワーク」と題した作品では、パレスチナの茶色い砂とイスラエル南部の白い砂を配置し、その上に複数の黒いラインを走らせた。分断された二つの文化や地域が、実は互いに影響し合い、切っても切り離せない存在であることを示しているという。

 長く土地を巡る争いが続く中で、服部さんは、土地に染みこんだ「生命の営み」を作品に封じ込めてきた。

 驚いたのは、ユダヤ人による作品への反応の良さだった。西エルサレムでの展覧会では、多くの来場者が作品の意味を理解し、購入してくれた。利益は、ユダヤ人らがパレスチナ人との共存について学ぶ学校に寄付された。

 一方、エルサレム旧市街でのグループ展では、パレスチナ人から「私たちの思いを表現してくれた」と称賛された。ユダヤ教もイスラム教も偶像崇拝を禁じており、抽象画への理解がもともと深いことも理由の一つではないか、と服部さんはみている。

 現在、服部さんは、マーシャル諸島の日本大使館に勤務している。新たな作品づくりを進めていたところに、ハマスとイスラエルの戦闘が起きた。

 服部さんは新型コロナウイルス禍のなかで、両民族がある程度協力するのを目にしていた。相互理解がゆっくりと、しかし、着実に広がっていると感じていただけに、再び戦闘が始まり、長期化する現状に心を痛めている。

 今年6月中旬には、東京都港区で作品展を開いた。今後も機会があれば各地で作品を紹介し、イスラエル・パレスチナ問題への関心を喚起したいという。【三木幸治】

毎日新聞

国際

国際一覧>

注目の情報