存在しない論文を「引用」 あのケネディ厚生長官の米政府委報告書

2025/05/31 07:15 

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 米国のケネディ厚生長官が主導した子どもの慢性疾患に関する報告書で、実際には存在しない複数の論文が「引用元」として記載されていたことが明らかになり、政府は修正して再公表した。米メディアは、生成AI(人工知能)が使われて見過ごされた可能性があるとして、報告書の信頼性に疑義を投げかけている。

 当初の報告書は、トランプ大統領が署名した大統領令に従って設置された「米国を再び健康に(MAHA)委員会」が5月22日に公表した。食生活や化学物質の影響、過剰な投薬などに焦点をあて、委員会トップを務めたケネディ氏は「最高水準」の科学だと自賛していた。

 ところが、米新興メディアのノータスは29日、報告書で引用元として挙げられた500以上の文献のうち、子どもの抗うつ薬の使用などに関する7本の論文は存在しないと報道した。これらの著者名にあった研究者は実在していたが、報告書で引用された題名の「論文」には関わっていないと否定したという。

 また、米紙ワシントン・ポストは29日、引用文献のURLを確認したところ、少なくとも21件にアクセスできなかったと報じた。この報道は、引用文献のURLに米オープンAIの生成AI「チャットGPT」が使われた痕跡があったと指摘し、「ずさんな仕事だ」とするAI専門家の見解を伝えた。

 ホワイトハウスのホームページで公開されていた報告書は29日に更新され、実在しない論文は削除された。レビット報道官は「書式上の問題」があったとした上で、「報告書の内容を否定するものではない」と主張した。

 生成AIが時にもっともらしく虚偽の情報を出力する問題は、その実用化と普及における重要な課題となっている。

 ニューヨーク州での2023年のある民事訴訟では、チャットGPTを用いた調査を基に、存在しない判例を引用した準備書面が提出された。裁判所は書面の作成に関わった弁護士と所属事務所に罰金を科した。【ニューヨーク八田浩輔】

毎日新聞

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