吉田羊、和の装い&流ちょうな英語で観客魅了 『遠い山なみの光』ロンドン映画祭で上映

2025/10/17 19:08 

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

「第69回ロンドン映画祭」に参加した映画『遠い山なみの光』吉田羊(C)Photographer Eoin Greally Courtesy Vue Lumiere

 ノーベル文学賞作家カズオ・イシグロの原作を、石川慶監督が映画化した『遠い山なみの光』が、英国で開催された「第69回ロンドン映画祭」(10月8日〜19日)の〈Strands部門〉へ正式に出品された。

【画像】「第69回ロンドン映画祭」そのほかの写真

 公式上映は、ロンドン中心部のカーゾン・メイフェア・シネマのスクリーン1(307席)で行われ、チケットは発売と同時に完売。満席の会場で、石川慶監督、原作者のイシグロ、主演の吉田羊、カミラ・アイコらが登壇した。

 吉田羊は、日本らしい松竹梅柄の着物に、劇中でも象徴的な“猫”の柄の帯、さらに英国女王をイメージしたクラウンモチーフの帯留めを合わせ、日本とイギリスの文化をつなぐ装いで注目を集めた。

 上映後のQ&Aセッションでは、映画化の経緯や制作に込めた想いが語られた。

 石川監督は、「長崎」というテーマは日本人にとって特別な意味を持つとした上で、「イギリスからの視点で語れば取り組めると思いました。特に戦後80年という事もあったので、今回はそういう思いで作りました」と語った。

 イシグロは、映画を石川監督に託した理由を「彼が信頼できる映画人だと感じたから」と説明。「物語は時代とともに姿を変えるべき。だからこそ、原作者が過剰に関わってはいけない」と語り、「僕はホメロスのようになりたいと思っていて――つまり、物語を書いたあと、それを他の人たちが自由に引き継ぎ、新しい形で語り継いでいく、そういう存在に」と話した。

 観客からの質疑応答も行われ、英語での演技について問われた吉田は「可能な限り英語で話します」と通訳なしで応答。「日本語のセリフに比べて英語のセリフを覚えるのはとても大変でした。でも、この役を作るうえで一番大切だったのは、彼女が長崎からイギリスに移ってからの30年間の人生を想像することでした」と、流ちょうな英語で役へのアプローチを語った。

 石川監督は、作品について「これは“記憶”についての映画」と強調。「長崎の再現ではなく、人々の記憶の中にある長崎を描きたかった」とし、「戦後の長崎というと、原爆の爪痕ばかりを想像しますが、すでに人々は前に進み始めていた。それは1950年代の日本映画ではほとんど描かれなかった部分でもあります。そうした希望ある日常を映画として描くことが、本作の大きな目的だった」と締めくくった。

 本作は、戦後長崎から渡英してきた悦子の過去に隠された真実を描くヒューマンミステリー。悦子役を吉田、悦子の娘ニキ役をカミラ、1950年代の悦子役を広瀬すず、悦子が長崎で出会った佐知子役を二階堂ふみが演じる。

 ロンドン映画祭は、1957年創設のイギリス最大級の映画祭であり、毎年秋にロンドン各地で開催。世界中から集められた話題作やドキュメンタリー、独立系映画など多彩なジャンルが上映される。批評家、観客、業界関係者が一堂に会し、新たな才能や表現に出会う国際的な場となっている。

 〈Strands部門〉は、映画をテーマ別に編成することで、より多様な観客へ向けた開かれた映画祭を目指す試みのひとつ。本作は、観客を非日常へと連れ出し、物の見方を変えるような旅や目的地に焦点を当てた作品群が選出される<Journey>カテゴリに選出された。過去には、三宅唱監督の『ケイコ 目を澄ませて』なども上映されている。
ORICON NEWS

エンタメ

注目の情報