タブレット導入のあんこ工場 負担減に加え「前向きな提案も」

2026/04/05 12:15 

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

 ブォンブォンと音を立てる製造機、棚に並ぶたくさんのあんこ――。甘い香りに包まれたあんこ製造工場で、従業員が手にするのはタブレット端末だ。QRコードを読み取り、画面上で項目を確認しながら、品質や在庫数などを入力していく。

 あんこの製造や販売を手がける「ナニワ」(愛知県みよし市)は2024年以降、製造現場のデジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組んでいる。それまでの手書き業務はタブレット上で完結するようになり、作業量は激減。現場の負担軽減につなげた。

 老舗あんこメーカーが取り入れた一つの改革。その背景には、ある危機感があった。

 ◇デジタル化前は土曜出勤も

 在庫の棚卸しで使用する帳票や業務日報、設備や機器の点検票……。DX化以前の現場では、こうした手書きの紙データが130種類以上あった。手作業ゆえ記入漏れや誤記などミスが相次ぎ、現場の負担も大きかった。

 中でも手間だったのが、用途が多岐にわたる生あんの在庫管理だ。取引先に合わせた製造管理が必要で、日々の帳票記録に3人で3時間も費やしていた。

 こうした労務負担もあり、10~12月の繁忙期は土曜も出勤日に。現場からは「休みが少ない」という切実な声が上がっていた。さらに、業務負荷の高さは社員の離職にもつながった。新卒で入社する4~5人のうち、半数が3年以内に退職。働き方の見直しは避けて通れない課題だった。

 ◇ベンチャーとの出合い

 「何か手を打たなければ」。疲弊する従業員の姿を目の当たりにし、危機感を抱いた工場長の杉本健児さん(46)は打開策を模索していた。そんな中、食品業界向けの展示会で、あるベンチャーと出合う。企業のDX導入を支援する「カミナシ」(東京)。帳票を簡単にアプリ化するシステムを提供していた。

 「プログラミングの知識なしで帳票を電子化できるのか」。杉本さんはカミナシのシステムに可能性を見いだし、社に持ち帰った。22年のことだ。

 社内での検討を経て導入が決定すると、杉本さんをリーダーとするプロジェクトチーム(PT)が発足。紙で管理するデータのうち、どれを電子化すれば業務が効率化するか、必要な機能は何か――。現場の声に耳を傾けながらチーム内で議論を重ね、独自のアプリを設計していった。

 システム導入時には現場に混乱を招かないよう、PTメンバーが丁寧に操作を説明。1週間は紙とタブレットを併用するなど段階的な移行で従業員の不安を取り除き、現場への定着を後押しした。

 ◇生産性7%向上

 こうした工夫によってスムーズな移行を遂げると、成果はみるみる表れた。懸案だった生あんの帳票記録作業は、1人で30分ほどに短縮。製造現場では年間で約700時間の労務時間の削減につながり、生産性は7%向上した。さらに、働き方の改善によって週休2日制も実現し、従業員の離職も減ったのだ。

 思わぬ副産物も。PTの渡部紗妃さんは「タブレット導入で一人一人が手応えをつかんだことで、前向きな提案が出てくるようになった」と、現場の空気に変化を感じている。

 「負担が減った分、商品をより良くすることに一層力を注いでいきたい」と工場長の杉本さん。同社は今、検品工程でのAI活用や事務・営業部門へのDX展開も視野に入れる。現場の課題をきっかけにした改革は、組織全体へと広がりつつある。【黒田麻友】

毎日新聞

経済

経済一覧>

注目の情報