「マルクスに聞いてみたい」 愛と皮肉 元巨人担当が語るナベツネ
1990年代後半から2000年代前半にかけての「ナベツネ」こと渡辺恒雄さんのプロ野球界における存在感と影響力といったら、失礼ながら現在の12球団のオーナーが束になってもかなわない。
コミッショナーやセ・パ両リーグ会長の人事さえ、その意向が左右したのだから、プロ野球担当記者が追いかけ回すのも当然だ。しかも渡辺さんはサービス精神旺盛なので、囲まれれば何か一言いわずにいられない。その結果、数々の「ナベツネ語録」が誕生した。
最も有名、かつ最悪なのは2004年球界再編騒動時の「たかが選手が」だが、それ以外では皮肉やユーモアの利いた発言も少なくなかった。
例えば同じ選手会への批判でも、00年ごろに取材で聞いた「待遇改善を言うなら裏方や2軍選手の最低年俸引き上げが先だろ。彼ら(選手会の首脳部)はブルジョアだぜ。どう思うか、マルクスに聞いてみたいもんだ」など、格差社会の今なら一定の賛同を得るかもしれない。
ところで渡辺さんは野球や巨人をどれぐらい愛していたのだろうか。それについては、筆者は00年に長嶋茂雄監督(当時)から、こんな話を聞いた。
「帰宅するハイヤーの中で巨人戦のラジオ中継を聞いていて、自宅に着いたところでちょうど試合のクライマックスが来たらしいんだ。オーナーは『気になって降りられるか!』と試合が終わるまで家の真ん前で、ずっと車内でラジオを聞いていたらしいよ」
この年、巨人は渡辺さんがオーナーに就任後、初のリーグ優勝を果たす。優勝が決まった時、東京ドームの特別席で観戦していた渡辺さんは涙を流し、その姿を見つけたスタンドの巨人ファンと一緒に何度も「バンザイ!」を繰り返した。
思えばあの時が、渡辺さんが巨人のオーナーとして最も幸せだった一瞬かもしれない。【元巨人担当・神保忠弘】
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