医師の宿直は労働? 認めなかった国敗訴、「働かせ放題」に警鐘

2026/04/01 19:49 

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 くも膜下出血で寝たきり状態になった東京大学医科学研究所付属病院(東京都港区)の50代男性医師が、過重労働による労災認定を求めた訴訟の判決で、東京地裁は労災を認めた。男性は宿直勤務にも入っていたが、労働基準監督署や労働局の審査官は宿直中に「仮眠が取れた」などとして労働時間から一部または全て差し引いて労災と認めなかった。

 判決は「宿直中も病院の指揮命令下に置かれ、労働からの解放が保障されていたとはいえない」として宿直時間を「業務の過重性を評価する労働時間」と認めた。判決は3月16日付。国は控訴せず、判決は確定した。

 医師の宿日直を巡っては、労基署長の許可を得ることで従事した時間が労働時間の上限規制から外れる「宿日直許可」という仕組みが労働基準法で定められており、労働時間短縮の「抜け穴」との指摘がある。男性の弁護団は「判決は現状に対する警告だ」と評価した。

 ◇「ほとんど労働のない勤務」?

 判決などによると、男性は同病院の緩和医療科で勤務していた2018年11月、くも膜下出血で倒れた。発症前1~6カ月の時間外労働は、月3、4回程度の宿直を含めると過労死ライン(月80時間)を大幅に超えていたとして、三田労基署に労災申請した。

 だが労基署は、午後5時15分から翌朝午前8時半の15時間15分の宿直のうち少なくとも6時間は「仮眠が取れた」などとして、労働時間から差し引き、労災認定しなかった。

 さらに、東京労働局の労働者災害補償保険審査官も病院が宿日直許可を得ていたことなどから宿直中の労働時間をゼロと判断。宿直を「ほとんど労働をする必要のない勤務」と評価した。厚生労働省の労働保険審査会もほぼ同様の判断を示し、労働時間以外で重視する仕事の質についても「精神的緊張を伴わない業務」としていた。

 ◇判決は「緊張状態」認定

 裁判では、宿直時間が労働時間に当たるかが主な争点となった。男性側は、宿直中に重症患者の急変やみとり対応に追われ、待機中でも看護師からの呼び出しを常時受けられるようにしており、緊張状態にあったと主張。国側は審査の過程から労働時間に当たらないと反論した。

 判決は、男性に宿直時の対応やカルテの作成のほか、院外に出られない実態があったと指摘。宿直時間は「待機を主とするものとはいえない」とした。また、仮眠時間が長く取れた場合でも「看護師から呼び出される可能性があるなどの可能性も認識した上で宿直業務にあたっていた」として「一定の緊張状態にあった」とし、宿直時間は労働時間に当たると判断した。

 ◇「働かせ放題」に警鐘

 宿日直許可は「ほとんど労働する必要がない勤務」を一般的な許可基準とし、24年度から医師の労働時間を抑制する「医師の働き方改革」が始まるのを機に厚労省は医療機関に取得を促してきた。地域によって医師が不足する中で改革が進めば医療提供体制が崩壊しかねないことが背景にある。だが、働き方改革を形骸化させるとの声もあった。

 男性側代理人の川人博弁護士は「宿日直許可で医師は働かせ放題になっているのが実態だ。病院関係者や労働行政は判決を警告として重く受け止めてほしい」と話した。

 男性の妻はコメントを出し、「夫は、幼い子ども2人の父親でもありました。過重労働という当然の結論を得るために7年以上もの間、長く厳しい闘いを強いられました」と心情を吐露。「国や労基署は、従前の制度運用がいかに社会的常識から乖離(かいり)していたかを真摯(しんし)に受け止めてほしい」と求めた。【宇多川はるか】

毎日新聞

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