次席検事「虚偽と言えるか疑義ある」 大川原冤罪、告発対象の報告書に
化学機械メーカー「大川原化工機」(横浜市)の冤罪(えんざい)事件の捜査を巡り、検察審査会が「不起訴不当」と議決した警視庁公安部捜査員(当時)の3人について、東京地検は23日、再び不起訴処分(容疑不十分)とした。虚偽有印公文書作成・同行使容疑での刑事告発に対する捜査は終結した。民事訴訟では違法捜査が認定されたが、刑事事件として個人の責任が問われることはなくなった。
地検の市川宏次席検事は取材に、告発の対象となった報告書が「虚偽と言えるのか疑義がある」と理由を説明した。
大川原化工機側は①捜査を指揮した警部と部下の巡査部長が不正輸出の対象となった装置の温度実験で、立件に不利な結果が出た回収容器の実験データを報告書から削除した疑い②元取締役の取り調べを担当した警部補が供述調書を過失で破棄したとする虚偽の報告書を作成した疑い――で刑事告発した。
地検の不起訴処分に対し、①を審査した東京第6検察審査会は9月、公安部の捜査を「立件ありき」と指摘し、虚偽の公文書が作成されたと認定した。また、②を審査した東京第4検察審査会は2月、「調書の破棄は過失」とした警部補作成の報告書の内容について「虚偽」と言及した。
地検が①で報告書を虚偽として捜査員を起訴するには、回収容器が「装置の内部」ということを立証する必要があった。地検は捜査員には「装置の内部」という認識がなかったとし「実験データが必ず報告書に記載すべき事項だったとは認められない」とした。
②も報告書を虚偽とするには、警部補が故意で調書を破棄し、それを隠すためにうその内容を書いたことを立証する必要があったが、地検は「隠蔽(いんぺい)や虚偽記載の意図を認定するのは困難」と説明した。
捜査終結を受け、大川原化工機の大川原正明社長(76)は「検察は組織を守るために身内の悪に目をつぶったのだろうか。残念であきれるばかりだ」とコメント。代理人の高田剛弁護士は「不起訴不当でも強制起訴を可能とする制度改正が必要」とした。
民事訴訟では公安部の逮捕や地検の起訴を違法とし、東京都と国に計約1億6600万円の賠償を命じた東京高裁判決(5月)が6月に確定した。警視庁と最高検はそれぞれ検証報告書を公表し、幹部が大川原化工機側に謝罪した。【岩本桜、北村秀徳】
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