諏訪湖の「御神渡り」583年間の記録 宮司ら、国際学会で発表へ

2025/10/14 16:15 

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 長野県の諏訪湖で、厳寒期に氷が割れてせり上がる自然現象「御神渡(おみわた)り」の観察を続ける八剱(やつるぎ)神社(諏訪市小和田)の宮坂清宮司(75)が15日、ニュージーランドで開かれる国際気候変動適応学会の会合にオンラインで出席。「諏訪湖の御渡(みわた)りと気候変動」と題し、研究者の福村佳美さん(54)=神戸市=と共同発表する。【宮坂一則】

 諏訪湖は2019年以降、御神渡りが出現しない「明けの海」が7年連続しており、戦国時代の1507年から8年続いた過去最長記録に並ぼうとしている。

 八剱神社の御神渡りの記録は、室町時代中期の1443(嘉吉3)年から583年間にわたる。「当社神幸記」「御渡帳」、明治時代からは「湖上御渡注進録」と名称を変えながら書き継がれ、宮坂宮司は「世界に類をみない結氷の記録であり、人々がつないできた証し」と話す。

 会合は「Adaptation Futures2025」で13~16日に開催。世界約120カ国からオンラインも含め1000人以上の参加が見込まれるという。2人の発表は15日午前9時45分(日本時間)ごろから。上諏訪駅前の商業施設「すわっチャオ」からオンラインで登壇する。

 宮坂宮司は「先人から受け継ぐ御渡りの歴史や温暖化の影響で結氷しなくなった諏訪湖の様子を世界の人に知ってもらう良い機会」と意気込んでいる。

 発表では、学術的なことより諏訪湖との関わりや体験に主眼を置き、「子供のころの諏訪湖」「明けの海」「百年後の子孫に」など5項目に分けて話す。記録を解読してわかった農作物の作柄や1703年の浅間山大噴火がきっかけとなった天明の飢饉(ききん)の惨状、氷上での飛行機の離着陸訓練、諏訪湖の氾濫といった出来事、現在の湖面観察の様子などにも触れる。

 「明けの海」が続いていることについては「明らかに(気候が)異常だと伝えたい」。「百年後の子孫に」では、自然の大切さや諏訪の風土から生まれた伝統文化の継承に注力していることにも言及し、「結氷しない諏訪湖が警鐘を鳴らしている」ことの意味を世界に発信したいという。

 英語での発表にプレッシャーがあり、「普段は大和言葉で祝詞(のりと)をあげているのでとても大変。英語の辞書を引くのは高校生以来で、英語に堪能な友人に発音を教えてもらって毎日、発音を練習し英訳文をチェックしています」。

 福村さんは「雪氷文化の気候変動適応への経路」を筑波大大学院で研究していた21年1月から毎年、御神渡り観測を取材し関係者の聞き取り調査を行うなどしてきた。会合では「明けの海」が続く中で観察を続ける宮坂宮司の御神渡りに向き合う姿勢の変化について説明する予定。宮司の発表文を英訳したほか、質疑応答の通訳もする。

 福村さんは「世界的な気候変動によって(諏訪湖に)氷がない中でも、御神渡りの伝承が形を変えて続いている様子を世界に伝え、多くの人に考えてもらう機会につなげたい」と期待を込めた。

毎日新聞

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