「パレスチナの木」に込められた思い 万博会場で広がる交流の輪

2025/10/12 09:00 

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 大阪・関西万博の会場に、「文明の森」という展示がある。チェコの企業が手がけた芸術作品で、6500年前の亜化石のオークの木(ボグオーク)約130本を並べ、古代の森に見立てている。それぞれに参加国の名前が付けられており、うち1本が9月、「パレスチナ」と名付けられた。パレスチナ自治区ガザ地区のイスラム組織ハマスとイスラエルの間で戦闘終結に関する合意が発表されたが、万博会場では一足先にパレスチナに心を寄せる人々の交流の輪が広がっていた。

 ◇木が発信する自由と平和への思い

 9月10日、パレスチナパビリオン(PV)のマネジャー、ラファット・ライヤーンさんが文明の森を訪れ、1本の木を選んだ。イスラエルは2023年10月からパレスチナ自治区ガザ地区への大規模侵攻を続け、ジェノサイド(集団虐殺)を行っている。ライヤーンさんが「パレスチナは世界の一部であり、誰も私たちを地図から消し去ることなどできないということを、私たちに代わって(木が)証明してくれることを願う」とあいさつすると、集まった人たちから拍手が起きた。

 木の根元にはQRコードが設置されている。スマートフォンなどで読み込むと、英語、日本語、アラビア語で、パレスチナの人々が自由と平和を望み、尊厳や正義、人間性をもって生きることを夢見ているというメッセージが流れる。さらに「占領を終わらせ、自由を手にし、自らの土地に独立国家を築くために、世界の人々の支援を心から望んでいる。私たちは人間同士の連帯が距離を超えると信じている」と訴える。

 ◇パビリオンが外交の舞台に

 この木が「パレスチナ」と名付けられたのは、英国やカナダ、オーストラリアが国家承認を発表する10日ほど前だった。こうした動きに呼応するように、パレスチナPVも静かな「外交の舞台」となっている。

 パレスチナPVは他国との共同入居型PVにある。小規模だが、歴史的建造物を模した出入り口に、現地で作られた手工芸品、美しい自然や歴史遺産、街の風景の動画や写真が並ぶ。スタッフによると、最近になって英国、カナダ、ポルトガル、サンマリノなどのPVの代表や要人が訪れたという。いずれもパレスチナを国家承認した国だ。

 24年5月に国家承認したアイルランドの国会議員らが10月2日、パレスチナPVを来訪した。案内したライヤーンさんは「パレスチナ人は確かに存在する。いまガザで行われているのは、それを消し去ろうとする試みだ」と訴えると、一行は真剣な表情で耳を傾けていた。

 うち一人が口を開いた。「私たちは平和実現のために支援を続ける。あなた方を支持しているからこそ国家承認した。ここにいるメンバーはさまざまな政党に属し、意見が一致しないことも多い。だが、この問題については団結し続ける」。ライヤーンさんは一行と固い握手を交わした。

 文明の森は、過去と未来、そして国と国を「根」でつなぐことを意識して制作されたという。スタッフのカラム・ケリーさんは「パレスチナからの平和のメッセージは全員が心に留めるべきだ。私たちは調和して生き、違いを乗り越え、不必要な戦争に終止符を打たねばならない」と語った。【矢追健介】

毎日新聞

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