新米収穫始まる 記録的高温と水不足、価格上昇…不安尽きず 山形

2025/08/31 12:46 

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 全国有数のコメ産地で知られる山形県鶴岡市で、新米の収穫が始まった。記録的な高温と水不足の影響が懸念される中、品質や収穫量はどうなのか。庄内平野のトップを切ってコンバインを始動した農家を訪ねた。

 「田植え前の長雨に、稲穂が出る前の7月の水不足。これほど水に困らされた年は記憶にない」。市内の7・6ヘクタールでコメを作る専業農家、菅原和行さん(63)は刺すような日差しの中、困惑顔でコンバインのエンジンをかけた。

 初日の8月28日に刈り取ったのは30アールに作付けした「ひとめぼれ」。高温続きで生育が進んだことから収穫作業は例年より1週間前倒しで、就農以来45年で最速ペースだ。

 同市によると、7月の平均気温は27・4度で過去最高だった。過去30年の平均が約220ミリの1カ月の降雨量は、わずか5ミリで過去最も少なかった。いずれも観測を始めた1976年からの記録を更新した。

 菅原さんは刈り取ったコメを乾燥調整した後、8月29日に市内の民間施設に42袋(約1・2トン)を持ち込んだ。

 施設では検査員が袋からサンプルを抜き取って水分量を計器で測り、形状や色などを目視で確認。全量が1等米と判定された。菅原さんは、ほっとした表情を見せた。

 だが、これから順次刈り取る予定の主力品種「はえぬき」や高級ブランド米「つや姫」も1等米と判定されるかどうか心配している。8月下旬になっても最高気温が30度を超える日が多く、米粒が白く濁るなどの高温障害が発生する恐れがあるからだ。

 さらに頭を悩ませているのは値段だ。

 JA全農山形は農家に前払いする2025年産米の「概算金」について、生産コストの上昇や農家経営の安定などを勘案し大幅な増額を決定した。1等米60キロで「つや姫」が3万1000円、「雪若丸」が2万8600円、主力の「はえぬき」が2万8000円と過去最高額で昨年に比べ約1・6~1・7倍。3銘柄とも昨年比1万1500円増で、上げ幅も過去最大だった。

 菅原さんはJAには出荷せず、地元産直や直接販売が主だが、概算金の上昇は店頭価格上昇の要因になる。「5キロ5000円を超えるような高値にしたら買ってもらえず『コメ離れ』につながる。自分で自分の首を絞めることになる」と不安がる。

 コメの価格上昇については「農家の経営にとっては助かるが、いつまでも続くものではない」と懐疑的だ。異常気象に加え、肥料や農業用大型機械の大幅な値上がりなど生産現場はこれまでにない厳しさに直面している。「高温に強い新品種の開発と普及を急ぐ必要がある。国には長期的視野に立ったビジョンをしっかりと農家に示し、コメ作りが続けていけるようにしてほしい」と話した。【長南里香】

毎日新聞

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