おびえる小学生、メニュー絞る飲食店…道路陥没の街で起きていること

2025/01/31 20:52 

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 埼玉県八潮市の県道交差点で道路が陥没しトラックが転落した事故は31日、発生から4日目を迎えた。破損した下水道管の復旧は進まず、周辺12市町の約120万人には下水道利用の自粛要請が出されたままだ。住民らは運転していた70代男性の救出と復旧作業の進展を願いながら協力を続けている。陥没の影響が長引く街を歩いた。

 「メニューが少なくてごめんなさいね」。正午ごろ、現場近くの中華料理店「平安」では店主の穐山学さん(52)が中華鍋を振りながら客に声をかけていた。

 下水に流す水や油の量を減らそうと扱う食材を絞り、メニュー数を普段の2割程度にした。人気の野菜炒めやマーボー豆腐などの炒め物はほぼ中止。提供するのはギョーザやチャーハンなど一部にとどまる。

 前日には一時閉店も余儀なくされた。蛇口をひねると薄く黄色がかった濁り水しか出なくなったのだ。救助活動のため市が水道管の一部を一時停止した影響とみられる。

 だが、その日の夕方ごろ、事態を聞いた常連客が「困っているなら使って」と大量のミネラルウオーターを差し入れてくれた。穐山さんは「お客様からの支えもあり何とか店を開けられている。事態が収束するまで協力を続けたい」と話す。

 水を大量に使う事業者にとって下水道の利用自粛は悩みの種だ。市内などに工場がある「クリーニングみわ」は1回の洗濯量を増やしたり、なるべくドライクリーニングで対応したりして節水に取り組んでいるという。担当者は「まだ救助が終わっていない以上、地域の会社としてしっかりやらなければ」と語った。

 12市町では、高齢者福祉施設などで入浴サービスを停止する動きも広がる。白岡市の担当者は「市の施設でも何かできないかと対応を決めた。利用に来られた方もいたが、ご納得いただいている」と話した。

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 長引く復旧に不安を隠せない住民もいる。現場近くの住宅街を訪ねるとパート従業員の女性(29)が「(小学生の長男が)ちょっとした物音でもビクリと反応するようになった。かなりストレスを受けているみたいで……」と顔を曇らせた。

 自宅は事故現場から約300メートル。長男は友達から「穴が開いて落ちてしまうかもしれないね」などと言われたことを気に病み、現場周辺を通ると「怖い」とおびえるようになった。女性は「カウンセリングの受診も検討したい」とため息をついた。

 現場にほど近い市立八潮中の体育館には約20人の住民が避難を続けている。交差点から約50メートルの場所に住む男性会社員(57)は「一日も早い救出を求めるとともに、ここに避難する皆さんが元の生活に戻れることを心から願っている」と話した。

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 陥没現場では救助活動に向けた懸命な作業が続いた。発生時から徐々に拡大した穴は長径約40メートル、深さ約15メートルに達し、そのうち約8メートルの深さまで土砂が積もっている。地元消防などは穴の中に重機を入れるため、幅4メートル、長さ30メートルのなだらかなスロープを造成する作業を進めている。

 現場の地盤は軟弱で崩壊の恐れもあり、掘削した地面にコンクリート材を混ぜて地盤を改良しながら造成する。完成すれば重機で堆積(たいせき)した土砂などを除去しながら救助を進める方針だ。

 県は、2月1日の夕方までには重機が穴内部に入れる状態まで工事を進めたい考えだが、スロープを乾燥させて固めるのに通常は数日かかるといい、実際に重機を投入できるのがいつになるかは見通せない。トラックの運転席部分は見つかっておらず、男性の安否を確認できない状態が続いている。【加藤佑輔、田原拓郎、鷲頭彰子】

毎日新聞

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