ベールに包まれる死刑制度 執行の順番、ルールは? 進まぬ情報公開

2025/01/10 05:30 

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

 再審請求の準備中に、なぜ死刑は執行されたのか――。福岡県飯塚市で1992年に小学1年の女児2人が殺害された「飯塚事件」で2006年に死刑判決が確定し、08年に執行された久間三千年(くま・みちとし)元死刑囚(執行時70歳)の遺族に対し、国が開示した執行の関係資料は大半が黒塗りだった。無実を訴えていた元死刑囚に代わって再審請求した遺族側は「早すぎた執行」の真実を探るため、黒塗り資料の開示を求める民事訴訟も起こし、国と闘っている。

 日本の死刑制度は、情報公開の在り方が極めて閉鎖的だと国際的にも批判を浴びてきた。執行された死刑囚の名前などは即日公表されるようになったが、執行までのプロセスや死刑囚の処遇実態といった多くの情報が秘匿されており、「ブラックボックス」だとする批判が絶えない。

 死刑執行を巡り、かつて法務省は「矯正統計年報」に前年執行の人数など限られた情報を掲載するのみだった。情報公開に消極的なのは「死刑囚の心情の安定」や「遺族感情への配慮」が主な理由とされ、報道機関の取材などを通じて執行した事実が初めて判明するケースが多かった。

 1998年11月からは「刑罰権行使が適正に行われていることについて国民の理解を得る必要がある」との理由で執行の事実と人数をリアルタイムで公表する運用に変更。2007年12月以降、死刑囚の名前や犯罪事実も明かされるようになった。

 ただ、それでも公開情報はごく一部に限られている。法務省などによると、これまで執行後に名前などが公表された元死刑囚は77人。判決が確定してから最短で約1年4カ月後、最長で約18年後に執行されており、期間に大きな差があるが、執行の順序を決める基準などは明らかにされていない。法務省は具体的な執行手続きや収容中の処遇実態などについても公表せず、死刑制度を維持する他の国と比べても情報公開が進んでいないと指摘されている。

 こうした状況を変えて死刑の存廃について国民的な議論を深めようと、旧民主党政権時代の10年8月、千葉景子法相(当時)は省内勉強会を設立したが、存廃の結論を示すことなく、12年3月で議論は打ち切りとなった。「執行に関する情報提供の在り方」などもテーマだったが、同月に公表された報告書の末尾に「別の形で検討する」と記載。この点について法務省はその後も「省内のさまざまな場面において検討、議論が行われている」とするが、「(内容は)対外的に説明できるものではない」として情報公開には後ろ向きな姿勢を崩さない。

 冤罪(えんざい)の可能性が残る再審請求中の死刑囚に対する刑執行のルールも不透明だ。戦後長い間、執行を避けることが通例だったとされるが、近年はそうした運用が変化しているように見える。17年7月以降で再審請求中に執行された死刑囚は少なくとも19人に上る。ただ、法務省は執行時に再審請求中だったのかを含めて明らかにしていない。

      ◇

  22年、飯塚元死刑囚遺族の請求に基づき、国は一部の文書を開示した。だが、文書の多くは黒く塗り潰されており、黒塗りが9ページにわたる部分もあった。【志村一也】

毎日新聞

社会

社会一覧>

注目の情報