「国連は国際協調への希望」 創設80周年で総会議長が寄稿
国連創設80周年に当たり、第79回国連総会のフィレモン・ヤン議長が毎日新聞に寄稿した。国連が第二次大戦後の世界で果たしてきた役割を振り返りながら、未来に向けて行動を起こすことの重要性を訴える。
◇第三次世界大戦の回避、全力で
80年前の6月、国際連合憲章がサンフランシスコで調印され、長年の戦争の時代に終止符が打たれ、より良い未来への希望が示されました。この80年間、国連は国際協調への私たちの希望を最も強く表す存在であり、「戦争の惨害」を終わらせるという私たちの願いを最も体現する機関として機能してきました。冷笑的な空気が漂う世界においても、この節目は認めるに値します。
国連は、これほど長く存続してきた他に類を見ない組織です。二度にわたる世界的大惨事のがれきの中から生まれたという設立の背景を考えると、その持続性は特筆すべきものです。前身である国際連盟は失敗に終わっていました。
どのような組織も完全ではありません。しかし、ダグ・ハマーショルド第2代国連事務総長の言葉を借りれば、国連は人類を天国に連れていくためではなく、地獄から救うために設立されたのです。そしてその使命において、国連は失敗していません。
私たちは今もなお、ガザやスーダン、ウクライナ、その他の場所で、胸が張り裂けるような戦争の光景を目にしています。最近のイランとイスラエル間の緊張の激化は、特に緊張にさらされている中東地域において、平和のもろさを思い起こさせます。
それでもなお、暴力がある中で、私たちは第三次世界大戦を回避することができています。核の時代において、これは当然のことと捉えるべきではありません。私たちは全力を尽くしてこの成果を守り抜かなければなりません。
この80年間の人類の発展の多くには、国連の直接の刻印があります。2000年に189の加盟国と20以上の国際機関によって採択されたミレニアム開発目標(MDGs)は、世界に行動のための共通のロードマップを提示しました。
2015年までに、1990年と比べて極度の貧困は半分以下にまで減少しました。子どもの死亡率は約50%低下しました。また、特に長らく教育を受ける権利を奪われてきた女児を含め、何百万もの子どもたちが初めて学校に通えるようになりました。
いま私たちが持続可能な開発目標(SDGs)の達成に向けて取り組むなか、この進歩の遺産の上に、成果をさらに積み重ねていかなければなりません。貧困と飢餓の根絶、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジの達成、そして持続可能な生産と消費の推進に向けた取り組みを続けなければなりません。
◇旧植民地の独立、世界秩序を再構築
もう一つ、しばしば見過ごされがちな進歩の物語があります。それは帝国の解体です。80年前、植民地主義が世界の大部分に影を落としていました。今日、アジア、アフリカ、カリブ海、太平洋地域の80以上の旧植民地が独立を成し遂げ、国連に加盟しています。国連の支援を受け正当性が与えられたこの移行は、世界秩序を再構築しました。それは自決権の勝利であり、すべての国の主権平等という国連憲章に記された最も根本的な原則の力強い確認だったのです。
未来のために進み続ける世界は1945年以降、大きく様変わりしました。今日、国連は深刻化する資金不足という課題に直面しています。持続可能な開発のための2030アジェンダが掲げた約束にもかかわらず、進展には偏りが見られます。ジェンダー平等の実現はいまだ遠いものです。地球温暖化の抑制と地球環境の保護という誓いも達成が危ぶまれています。
しかし、こうした停滞は私たちの志を曇らせるのではなく、私たちの決意を一層確かにさせます。国連は常に、危機の時にその真価を発揮してきました。その創設者たちは、人類が最も破壊的だった姿を目の当たりにしながらも、絶望ではなく果敢さで応えたのです。私たちはその業績から学ばねばなりません。
サンフランシスコの精神は、ユートピア的なものではありませんでした。課題を直視する冷静な現実認識を基にしたものでした。それは、深い対立の中にあっても、国々が対立より協調を、無関心より行動を選び取ることができると掲げていたのです。
◇団結と連帯への呼びかけ再び
昨年9月、世界の指導者たちが未来サミットのためにニューヨークに集ったとき、私たちはその精神を再び目の当たりにしました。困難な交渉の末に、「未来のための協定」とその付属文書「将来世代に関する宣言」および「グローバル・デジタル・コンパクト」がコンセンサスで採択されたのです。これにより、指導者たちは、1945年に想定された以上に複雑で、つながり合い、かつ脆弱(ぜいじゃく)な世界における多国間主義を刷新していくことを誓いました。
その精神は今も生き続けています。193の加盟国の決意の中に、国際公務員の誠実さの中に、そして国連憲章の約束を強く信じる人々の静かな決意の中に宿っているのです。その精神は、国連事務総長の「UN80イニシアチブ」によって引き継がれています。これは国連に対して、人類のためにより良い成果をもたらし、柔軟性と希望をもって未来を見据えるよう呼びかけるものです。
この節目を迎えるにあたり、今こそ、80年前にサンフランシスコから響き渡った団結と連帯への呼びかけを再び強めなければなりません。
かつて私たちは、戦争の廃虚の中から世界秩序を築き上げました。それは、ビジョンと緊急性をもって成し遂げられたものでした。今、またしても私たちは後世に結末をもたらしかねない重大な時に立っています。危機は差し迫っていますが、私たちには行動する力が備わっているのです。
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