『ザ・ノンフィクション』はなぜ愛されるのか 過熱する誹謗中傷…AI時代の到来…新チーフプロ…
『ザ・ノンフィクション』(C)フジテレビ

【写真】男性に待ち受けていたまさかの結末…大反響を呼んだ『令和の婚活漂流記』
年々、ドキュメンタリー系の番組制作が減少傾向にある中、時代を超えて人々の関心を集め続ける理由は何なのか―。また過熱する誹謗中傷との向き合い方、AI技術の発展など急速に変容する社会の中で、ドキュメンタリー番組のあるべき姿とは。現在、同番組チーフプロデューサーを務める三浦淳信氏への独占取材から迫る。
『ザ・ノンフィクション』は1995年10月にスタート。放送開始当初から「日曜の昼下がり」という時間帯に、常に時代の中で懸命に生きる市井の人々の姿を見つめ、その心の奥にある葛藤や希望を描き続けてきた。2025年10月に放送30周年を迎え、翌26年には、放送文化の振興・向上に寄与してきた番組や人に贈られる「橋田賞」を受賞。今なお、フジテレビを代表する番組として多くの視聴者から親しまれている。
■予測不可能な物語が生まれる理由…長期密着だからこそ見える「人々の心の揺れ動き」
番組の強みの一つは、長い時間をかけて人々の人生を見つめることだ。中には、10年以上にわたって取材を続けるシリーズもある。「平成の駆け込み寺」と呼ばれた愛知県岡崎市の西居院で暮らす居場所を失った少年少女たちと、彼らを支え続けた熱血和尚の日常を追ったエピソードでは12年にわたり密着を続け、国内外で数多くの賞を受賞したことでも話題となった。
番組では一つのエピソードにかける密着期間は最低でも半年以上、平均で1~2年の密着期間を経てオンエアに至るとし「人々の心の揺れ動き、変化を描くとなると、短期間では難しいんです」と重厚なドキュメンタリーを生み出すために、苦労を惜しまない姿勢を鮮明にする。また取材対象に関する情報収集は新聞記事やSNSに加え、飲み屋での偶然の出会いなど多岐にわたる。常時30~40本の企画が同時並行して進んでいるというから驚きだ。
番組では、人物像にスポットを当てるばかりではなく、人物の営みや周囲を取り巻く環境の変化といった「人生」という大きな視点から作品を作り出す。そうした取材の中には予想もしていない事態も発生するが、それこそがドキュメンタリーの本質でもある。「取材を始めてみないと、どうなるかは分かりません。ディレクターの想像を超える出来事が起きて、最後に『こんな結末になるんだ』と驚かされる。それも『ザ・ノンフィクション』の魅力の一つだと思います。あらかじめ想定した展開に当てはめるのではなく、取材の中で起きる変化や、そこで揺れ動く人々の心を丁寧に追い、45分の映像にしています」と語る。
この取材姿勢の代表的な事例として、放送後には毎回大きな反響を呼ぶ『結婚したい彼と彼女の場合 ~令和の婚活漂流記2026~』などの「婚活」シリーズを挙げる。本エピソードでは、結婚相談所「マリーミー」を運営する婚活アドバイザー・植草美幸氏のもとで、現代の厳しい婚活市場で奮闘する男女のリアルな姿が描かれてきた。
「婚活漂流記」のスタートのきっかけは、植草氏の活躍が担当ディレクターの目に留まったことだというが、番組では婚活する側の目線に立って取材を続けた。「見る人が自分の人生と重ねて、『自分だったらどうするだろう』と考え、誰かと感想を語り合いたくなる。一人ひとりの人生を通して、そうした身近な問いを描くのが『ザ・ノンフィクション』の特徴」と番組の軸についても解説した。
■SNS時代の到来で過熱する誹謗中傷 重要度を増す取材対象者との信頼関係
近年、SNS上の声が世間の反応を示すソースとして利用されることが一般的になり、報道番組などでも匿名の声としてSNSでの書き込みを使用する機会も増えてきた。しかしながらこうした反応が可視化されることで、好意的な意見の反面、人を傷つける誹謗中傷の表面化という大きな問題を生み出しているのも実情だ。
番組では、常に取材対象者のありのままを撮影する。表面的な部分だけではなく本音の部分に迫る過程で、時には物議を醸すような姿も映し出す。また『ザ・ノンフィクション』の主人公の多くは、我々と同じように日々の暮らしを営む一般の人々だ。
放送後の反響が大きいことは、喜ばしいことばかりではなく「取材対象者がリアルタイムで心ない言葉を目にしてしまう恐れがあるのは、SNS時代の大きな難しさ」と語る。
こうした時代を迎え、より重要度が増しているのが取材対象者と制作者の信頼関係だとし、長期取材を続けているからこその強みが生かされると語る。一部のディレクターは、オンエアを出演者とともに見届けているといい「取材対象者だけに耐えることを求めずに、番組を世に出した制作側も最後まで背負うべきだと思う」と強調する。
また「人物の弱さや矛盾を映さなければ、その人の実像が見えなくなることもあります。だからこそ、刺激的な場面だけを切り取らず、なぜその言動に至ったのか、背景まで丁寧に伝える。取材対象者を孤立させないよう配慮しながら、番組としての誠実さも守る。この両方を守ることが、本当に今のSNS時代において、ドキュメンタリー制作には求められているのでは」と語った。
■AIの発展はドキュメンタリーの追い風に? 新チーフPが描く未来
2025年からプロデューサーとして同番組の制作に携わるようになった三浦氏は、今年7月からチーフプロデューサーを担うことになった。「一つの番組が30年間、しかも時間帯も変わらず続いてきた。本当にすごいことですよ」と語り、取材中には歴史ある番組を担う重責を感じていることがわかる瞬間が随所で見られた。
三浦氏の前任は約7年もの長きにわたって同番組のチーフプロデューサーを務めた西村陽次郎氏。西村氏は常日頃から「現状維持は退化でしかない」という言葉を口にしていたという。近年、ドキュメンタリー番組が数を減らしつつある現状を踏まえ「ここからどういう新しいものを描くのか。やっぱり変えていくべきところはあると思っています」と前を見据える。
そんな三浦氏が、ドキュメンタリーの未来を考える上で注目するのが「AI」だ。AIは近年、飛躍的な技術の進歩を遂げ、われわれの日常生活にも欠かせないツールの一つになりつつある。
一方で技術を悪用したフェイク動画などもSNS上では横行しているが、こうした時代の到来をドキュメンタリーにとってはむしろチャンスだと話す。「AI」による映像などが当たり前になっていく中で、「実際の人の人生に寄り添い、その変化を長い時間をかけて記録する。AIが映像を作れる時代だからこそ、手間と時間をかけて撮影した、本当に起きた出来事や人々の姿に、より価値を感じてもらえるのではないかと思います。そうしたリアルな人生の記録が、これまで以上に求められていくのではないでしょうか」と予想する。
AIの普及に加え、働き方や結婚観など、人々の暮らしや考え方も多様化している現代。「人生の優先順位みたいなものって、それぞれが考え、悩んでいると思うんですけど、そういうものがドキュメンタリーの題材になっていく。価値観がこれだけ多様化すれば、正解は1つじゃなくなる。視聴者の方々が異なる生き方に触れて、『自分ならどうするかな』ってことを考える作品を僕らは作っていきたいなと思っています」と言葉に力を込めた。
■三浦淳信(みうら・あつのぶ)。1982年3月18日生まれ。2005年にフジテレビ入社。同局の情報番組『とくダネ!』でAD、ディレクター、プログラムディレクター、『Mr.サンデー』ではディレクター、総合演出、プロデューサーを歴任。『ザ・ノンフィクション』のプロデューサーを経て、今年7月からはチーフプロデューサーを務めている。第35回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品『私、必要ですか?〜AIが“正解”を出す時代に〜』のプロデューサーも担当。
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