注目の新人シンガー・ソングライターNakamura Hak、緊張感に満ちた異例の初ライブ【…
異例の初ライブを行ったNakamura Hak 写真:小杉歩

【動画】Nakamura Hak、異例の初ライブの模様(アーカイブ映像)
■オフィシャルライブレポート
プロフィールは「田園調布生まれ、OL」のみ。アーティスト写真も顔は分からない。無名の新人シンガー・ソングライターとして、ほぼ素性を明かさないという異端の在り方でシーンに登場したNakamura Hak。しかも作品は歌とアコースティックギターのみで録音され、編集や修正は一切行わない。さらにリリースはCDのみという本気でこの音楽と対峙したいリスナーのみに届くスタンスをとっている。今回は累計発行部数750万部を数える人気漫画『とんがり帽子のアトリエ』のアニメエンディングテーマに書き下ろした「ただ美しい呪い」でavex内のレーベル「maximum10」よりメジャーデビュー後初となるライブを5月29日に虎ノ門ヒルズ46FにあるTOKYO NODE HALLにて行った。同時にオンライン配信も行ったこのライブはマイクやスピーカーを使わず、生声と生音のみ。拍手や声援も制限しての緊張感に満ちた空間は一言、前代未聞だった。
眼下に官公庁を臨むステージ背面。開演前のホールは無音で、そのことも緊張感を自ずと増長する。定刻に暗転するとステージを照らす明度の低いスポットの中に靴音と共にNakamura Hakが現れる。その後、彼女は立ち位置を変えるどころか、足でビートを刻むことすらせずにそこに直立していたのだが、たかが30分という勿れ。身一つで不特定多数の人間と対峙し、しかも一切のエクスキューズという名のMCも演奏以外の身振りもないのだ。物理的に他のどんな30分より長く濃い。少なくとも直近のどんな30分よりもそうだった。
ギリギリ、どんな衣装か分かる程度の照明で判明した中でも印象的なのは顔を覆うフードのような帽子で、意図的に汚しがなされたそれはイメージを広げると戦火の中の白無垢のようでもある。1曲目は5月20日にリリースされた1stEP『白は夢』の1曲目である「十七」。真剣に耳をすまさなければ聴こえない音量なのだが、それはこの曲が持つ始まりの記憶に向き合う表現なのだと思った。まるで彼女1人きりの部屋を覗いているような感覚の前半から、涙声にも似た「もう認めてあげたいよ」に始まる後半のコントラストに早くも圧倒される。自己紹介だったのか?と確信が持てないぐらいの声量の発言に続いては2026年5月27日発表のラジオオンエアチャート(プランテック調べ)全国総合2位を獲得したアーティストネームにも繋がるタイトルを持つ「白は夢」だ。このあたりで気づいたのだが、歌とギターだけで作る彼女の音楽はすでにそれがアレンジとして成立している。ポロポロと爪弾かれるアルペジオと話すテンションの歌が都会の孤独を痛いほど映し出し、曲が進むにつれ体から生み出されるグルーヴがストロークにも声にも乗ってくる。意思を突き通せなかった後悔など、いわば自分史を公然と立ち上げることの覚悟が滲む声は、感情に左右されて発されるほど不安定なものではなかった。そう。弾き語り、無修正は未完成ではなく完成されたスタイルなのだ。これはライブならではの発見だった。
いい意味で安定するとか場に馴染むことなく、1曲ごとにまた始まるというニュアンスで次は「ただ美しい呪い」を披露。不安、断罪、慟哭と変化していく感情がそのまま声の温度や色として発される緊張感、さらに“「もう助けてよ」と叫んでも”のくだりの文字どおりの叫び。1曲を通して舞台の一幕を見る思いがした。偽りない心情を描く詩人でありそれを肉声で伝えるボーカリストの側面に加え、表現者として分かち難いのは彼女のギターのアレンジであることを「砂のお城」「善と悪」でビビッドに知ることになる。歌の少し後ろにずらしたギターリフが大人にも子供にもなりたくないという躊躇の感覚にリンクした「砂のお城」、アコースティックギターのストロークでありつつ、オルタナティヴロックの荒涼としたトーンを感じさせた「善と悪」の序盤。先ほども書いたが、Nakamura Hakの弾き語りはそれそのもので完成していることをこの2曲でさらに思い知った。しかも相当ハードなストロークを奏でながら、彼女の足は定位置から動くことはない。つまり勢いで演奏していないのだと思う。轟音のロックバンド以上のストイックさをそこに見た。音量ではなく体感としての嵐の時間を過ぎて、ラストに歌われたのは逡巡の先に“正しさで飛べ”と歌う「夜に浮かぶ」だった。誰の言葉も届かないような自分だけが知っている後悔も狡さも開示する序盤の楽曲を経て、他者への眼差しも携えた「夜に浮かぶ」に至るこの日の6曲は彼女なりの物語とプロフェッショナリズムの証左だったのではないか。
なお、今回のアーカイブ映像はNakamura Hakの公式YouTubeにアップされており、6月13日には、早くも次の無料オンラインライブの開催が発表されている。派手な演出も説明的なMCも一切ないステージは強いて言えば、存在そのものが強力な磁場である絵画との対峙に似ていた。Nakamura Hakは説明しない。作品に初めて触れた際も感じた、この音楽のあり方を初ライブを体験した今、再び祝福したいと心から思った。
(文・石角友香)
■2nd Online-Live『境界』
6月14日(日) 深0:00~
※Nakamura Hak公式YouTubeチャンネルにて
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