“万博カラオケ”、当初は社内から心配の声も…SNSでの想定外の反響に吉本興業・岡本社長の本…

2025/06/06 08:40 

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吉本興業の代表取締役社長の岡本昭彦さん

 『2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)』に芸能プロダクションとしては、唯一のパビリオン出展となった吉本興業。早くもその存在感を示している。「よしもと waraii myraii館」のアシタ広場で行われているステージイベントが連日賑わい、SNSでは誰でも参加できる“万博カラオケ”が大バズリ。6月15日には、国連との共催イベントも行う同社・代表取締役社長の岡本昭彦氏に、出展の経緯や万博から先に見据える未来について聞いた。

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◆お笑いやエンターテインメントを発信する会社の身の丈にあったパビリオン

――万博開幕から約2ヵ月、メディアではネガティブなニュースも報道されますが、実際に会場を訪れた人のSNSなどの声は、概ね好評です。現状をどう見ていますか。

【岡本社長】 いろいろな報道がありますが、毎日たくさんの方にパビリオンに来ていただき、「おもしろかった」「また来たい」という声を多くいただいています。アシタ広場のイベントの合間には、笑顔を感知するシステムで来場者の笑顔をたくさんスクリーンに映し出していますが、みなさんにとても喜ばれています。

 そして、夕方から行われる盆踊りには、国内外の多くの来場者が参加されています。お笑いやエンターテインメントを発信する弊社の身の丈にあったパビリオンであり、それをみなさんに楽しんでいただけていると感じています。

――アシタ広場のカラオケイベントは、「万博カラオケ」と呼ばれSNSでバズっています。お堅いイメージのある万博のなかで、エンターテインメント会社らしい企画だと感じます。

【岡本社長】 他パビリオンのスタッフが歌いに来ていたり(笑)、外国人の来場者にも楽しまれています。口コミやSNSで広がっているようですから、これから来場者がどんどん増えるのではと期待しています。アシタ広場では、お笑いステージやコメディショー、手品などさまざまなライブを行っていますが、来場者に参加していただき、一緒に作り上げる企画が多くあります。来場者を巻き込んだ結果、喜んでいただいているのは、嬉しいですね。

◆参加希望者がゼロで社員が歌うことになるのでは…“万博カラオケ”に社内からは心配の声もあった

――“万博カラオケ”のバズも狙い通りですか?

【岡本社長】 当初は、観客を前に屋外ステージで歌うカラオケに、みなさん参加してくれるのか? 希望者がゼロで吉本興業の社員が、ずっと歌うことになるのではないのか?(笑)といった心配の声がありました。そんな不安とは裏腹に、結果みなさんが積極的にステージに上がってくれています。その様子がSNSでこんなにも盛り上がるとは想定外でした。カラオケや盆踊りなど、こんなにもシンプルでわかりやすいショーは、普段のイベントではなかなかできない。万博ならではの企画でもありますね。

――万博出展している企業パビリオンのなかで、エンターテインメント業界からの異色の存在になっています。そもそもの出展の経緯を教えてください。

【岡本社長】 大阪での万博開催が決まった頃に、関係者から、公募に参加しませんか、とお声がけをいただいたのが最初です。吉本興業は大阪の会社でもありますし、1970年の大阪万博に参加した芸人やスタッフの話も聞いていたなか、この先いつまた万博があるかわからない。いろいろなご縁もあり、そこまで深く考えないまま公募することになりました(笑)。

――お笑いをはじめとする日本のエンターテインメントを、世界に誇るべき日本文化として広く発信していくことに大きな意義があると感じます。

【岡本社長】 パビリオン出展が決まり、大阪のお笑いの会社である弊社が何をすべきかという話し合いのなかで、最終的に掲げていくことになったテーマが「こころとからだの健康につながる、笑いのチカラ」です。そして、もうひとつは「笑いと健康」プロジェクト。2024年から30社ほどと提携してスタートしていますが、笑いの力で、働く人やその家族、パートナー、仲間などあらゆる人が一緒になって楽しみながら健康になることを目指す取り組みです。その場としても、万博のテーマにマッチします。これらをこの1年ほどで本格的に進めてきたのが実情です。

――世界が注目する万博で、日本のエンターテインメントの存在感を示しているのではないでしょうか。万博カラオケや盆踊り、お笑いステージなど、SNSのポジティブな万博の話題をけん引するパビリオンになっています。

【岡本社長】 そうなっていればうれしいですね。所属タレントもスタッフもやりがいを持てるのではないでしょうか。

◆売れっ子芸人の海外移住、バックアップの本音「本人の意志を尊重してサポートするだけ」

――万博は夏休みを迎えるこれからが集客の本番になります。

【岡本社長】 芸人をはじめ多くのタレントから「万博に行きたい」「参加したい」という声があります。既定のプログラム以外にも、どんどん出てもらおうと思っているところです。テレビやラジオ、YouTubeも含めて現地収録ももっと増えていくので、開催期間を通していろいろな形で盛り上げていきます。

――万博開催の目的のひとつは、大阪・関西の経済振興や地域活性化です。万博が終わってから、パビリオン出展した成果はどう会社の未来につながっていきますか。

【岡本社長】 万博を通して、国内外のより多くの方に吉本興業を知っていただき、タレントを含めてわれわれのイベントや発信に興味を持っていただくことがひとつ。そして、みなさまの生活のなかに笑いと健康がある未来を作っていく。万博を契機にして、そこに取り組んでいきます。もうひとつは、すでに所属タレントが海外で活動していますが、万博をきっかけに所属タレントに世界を身近に感じてもらいたい。それがその先の行動につながることを期待しています。

――外国人観光客向けのノンバーバルステージも万博に向けて増やしてきました。

【岡本社長】 今年3月に大阪・難波に「よしもと道頓堀シアター」がオープンし、7月に新劇場「YOSHIMOTO ROPPONGI THEATER」を東京・六本木にオープンします。道頓堀シアターは飲食もできる新たなコンセプトで、六本木シアターはコントを中心にした公演が主ですが、いずれも外国人の方に楽しんでいただけるコンテンツも開発し、会社としてそういう機会をどんどん充実させていきます。この部分は、ここからさらにギアを上げてチャレンジしていきます。

―― 一方で、売れっ子タレントが活動の軸足を海外に移すのは、会社としてはデメリットになりませんか。

【岡本社長】 海外に魅力を感じるタレントがいてもいいし、国内外両方でがんばるタレントもいていい。もちろん日本だけだっていいし、大阪だけでやるというタレントがいてもいい。会社としては、本人の意志を尊重してサポートするだけです。

 渡辺直美もそうですが、本人の希望に対して会社は「こういうサポートができる」「こういう環境を提供できる」とマネージャーを含めて話し合いをします。確かに会社としては、彼女が日本で活動していた方が利益にはなります。それでも本人がやりたいと思うことをバックアップする。ニューヨークに住んで活動するという、そんなたくましい話はないですから、もちろん応援します。会社として、売れているタレントは海外に行かせないといったことは決してありません。

――所属タレントにとっては、海外でスターになる夢が持てる環境ですね。

【岡本社長】 スポーツは数字で結果がはっきり表れますが、お笑いは成果をどう測るのかが難しい。それでも、世界中のいろいろな人に知ってもらうことには意味があります。それを続けていくうちに、期待値を含めてですが、世界的スターになるタレントがそんなに遠くない未来に現れると思っています。

◆国連と吉本興業が万博をジャックする大型イベントを共催「エンタメと万博との架け橋は、役割のひとつ」

――6月15日には、国連との共催で万博会場全体を巻き込む大型イベント『Walk the Talk for SDGs in EXPO2025 UN&YOSHIMOTO』を開催します。

【岡本社長】 国連とは2016年からSDGsの啓発活動で連携させていただいてきた経緯があり、「万博で持続可能な開発目標(SDGs)への意識を高めながら、すべての参加者が笑顔でひとつになる日」を掲げるイベントを実施することになりました。お互いのパビリオンだけでなく、EXPOホール(シャインハット)や、ポップアップステージ東内と南、連携するさまざまな国や企業パビリオンのステージなど、万博全体を丸一日ジャックする大きなイベントです。国連と共同で開催できることを光栄に思っています。

――ニューヨークの国連本部でスピーチしたグローバルボーイズグループ・JO1がスペシャルサポーターを務めるほか、ゆりやんレトリィバァなど人気芸人も参加します。かなり盛り上がりそうですね。

【岡本社長】 JO1がSDGsの活動を含めて、未来に向けてファンを巻き込むムーブメントを作っていきたいと国連で話したことが、今回の起用につながっています。彼らやゆりやんが出演するオープニングとエンディングのメインイベントのほか、各ステージでの文化交流やお笑い、音楽、スポーツのトークや実演などのショーをいろいろな国や企業と連携して行い、誰でも気軽に参加できるデジタルスタンプラリーもあります。

――吉本興業ならではの大掛かりな仕掛けです。万博における吉本興業の役割はどう考えていますか。

【岡本社長】 国連からお声がけいただき、みなさんにアイデアをいただきながら協力しあって進めてきました。万博やSDGsに関心がなかった若い世代が会場に来てくれるかもしれません。お笑いやエンターテインメント好きな人たちと万博との架け橋になることが、弊社の役割のひとつです。タレントもスタッフも笑いを提供したいという思いがあり、国連にはSDGsのゴールに向かう目標がある。それぞれの目標を持って一緒に活動することで、多くの来場者を巻き込んで未来へ進んでいく。そういう1日をみんなで作っていくことができれば、この万博に参加した意味があると思います。

――SDGsが掲げる2030年のゴールまであと5年になりました。国連と吉本興業の連携もこれまで以上に急ピッチで進めていくことになるのではありませんか?

【岡本社長】 やはり「あと5年」というワードは頻繁に出てくるようになっています。ただ、2030年はひとつの目標設定です。それまでもその後も、弊社ができることを継続していきますし、国連とできることがあれば積極的にご一緒していきたいと考えています。エンターテインメントを通して笑いや笑顔を届けていく取り組みは変わりません。年々、SDGsに賛同するタレントが増えていますので、これからより盛り上げていけたらいいですね。

(文/武井保之)
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